オオカミさんにはごよおじん
その日、猫妖精のリディアは、狼妖精のエドガーの家へと招待されていました。
エドガーの家は、この辺りでは一番の大きなお屋敷です。普通の妖精達が気軽に近づける場所ではないのですが、リディアだけは別でした。何と言っても、屋敷の主であるエドガーに、本人の自覚はないまでも、それはもう気に入られているのですから。
でも、最近のエドガーは、少し変なのです。この前だって、いきなりあんな痛いことをしてきたし……大丈夫かしら、とリディアは少し不安になりました。でも、昨日声をかけられた時、エドガーはこう言っていたのです。美味しい物があるからおいで、と。
妖精達は、みんな美味しいものに目がありません。これまでも、エドガーが珍しいお菓子やら果物やらをご馳走してくれることはありました。最近のエドガーはちょっと変だけど、でも相変わらずリディアが困っていればいつだって助けてくれるのですから。
大丈夫よね、と思いなおして、リディアはエドガーの従者のレイヴンに案内されるまま、屋敷の中を歩いていきます。案内がなければエドガーのいる部屋までたどり着けないぐらい、このお屋敷は本当に広いのですから驚きです。
「やぁ、リディア。よく来てくれたね、僕の妖精」
部屋に入ると、早速エドガーが出迎えてくれます。尻尾をぱたぱたと振って、本当に嬉しそうです。でもリディアは、エドガーのものになったつもりなんかありません。
「こんにちは、エドガー。美味しい物ってなあに?」
「その前に、ほら、これ。この前見つけたんだ」
そう言うと、エドガーはそっとリディアの髪を手にとります。リディアの心臓が少し騒がしくなりました。以前はエドガーに髪を触られても別に平気だったのに、今はどうにも落ち着かない気分で、尻尾がぱたぱたと動いてしまいます。
もぞもぞと身体を動かすリディアの髪に、エドガーは白い可愛らしいレースを編みこんでいきます。この辺では目にしない、とても上等なレースの端が、目の前でひらひらと揺れています。
「ほら、できた。うん、思った通り、君のキャラメル色の髪によく似合う」
「そ、そう……?」
「うん。ますます甘くて美味しそうだ」
そう言うと、エドガーはリディアの髪にキスをします。恥ずかしくなって、リディアはばっとエドガーから離れました。
「あ、あの……用事がないのなら、あたし帰るわよ。これでも暇じゃないんだから」
「あぁ、わかってるよ。こっちにおいで、リディア」
そう言ってエドガーは、リディアを続き部屋へと案内しました。美味しい物は、そこに用意されているのでしょうか。首を傾げながら、リディアはとことことエドガーについていきます。
「これ、なあに?」
部屋の中には、小さな机が置かれていました。変な布がついていて、真四角な机です。
その上に乗っている大きな風変わりな鍋からは、今まで嗅いだことのないいい香りが漂ってきます。くん、とリディアは鼻を鳴らしました。
「これはね、人間界でも遠い国でよく食べられているものなんだ。この机も、そこで使われているものなんだよ。寒いこの時期にはぴったりなんだ」
「だって、これ、椅子がないわよ。どこに座るの?」
「これは直接床に座るんだ。僕も初めて見た時は驚いたけどね、これがけっこう心地よいものなんだよ」
床に座る? 驚くリディアの前で、エドガーはさっさと床に座り込むと、机についている布の中に両足を突っ込んでしまいました。リディアは目を丸くします。
「ほら、リディアもおいで。いつまでもそこにいると寒いだろう?」
猫妖精は、妖精の中でもとくに寒さに弱いのです。戸惑いながらも、リディアは誘われるままに座り込むと、布の中に足を入れてみました。
「温かい……」
ベッドの中にいるようなものか、と思ったのですが、それとも違います。中は思ったよりもずっと温かいのです。
「だろう? それにほら、こっちの料理も美味しいんだよ。きっとリディアは気に入ってくれると思うな」
言いながら、エドガーは鍋の蓋を開けます。リディアは、わくわくしながらその中を覗き込みました。
何だか見たこともないものが、たくさん入っています。けれどよく見れば、中には見知ったものもあります。あれはじゃがいも、これは卵でしょうか。ウィンナーも入っています。
「美味しそう……これ、食べていいの?」
「うん、もちろん。あぁだけど、待って。君は猫舌だから冷まさないと」
お皿に色々な具をよそると、エドガーはそれをふーふーと冷ましてくれます。まるで小さな子供に対する態度のようで、リディアは顔を赤くしました。
「エドガー……あの、自分で食べれるからいいわよ」
「ダメ。それで君が火傷なんかしたらどうするんだい?」
どうするもこうするも、別にそれぐらいどうってことないじゃないとリディアは思う。
「はい、リディア。ほら、口開けて」
「だ、だから、自分で食べれるったら!」
口元まで運ばれたフォークを、リディアは無理やり奪い取りました。隣にいるエドガーは、わざとらしいほど眉を下げます。
「せっかくだから食べさせてあげるのに……だれもいないんだから恥ずかしがらなくていいんだよ、リディア」
「あたしは小さな子供じゃないのっ!」
確かに、狼妖精は猫妖精よりもずっと力のある妖精です。猫妖精で、さらに年下の女の子であるリディアは、エドガーからすれば子供のように見えるのかもしれませんが、リディアからすればたまったものではありません。
ぷりぷりと怒りながら、エドガーをあえて無視するように顔を逸らすと、リディアはフォークの先に刺さったじゃがいもを口の中に入れました。
「あ……おいひい」
「本当? 良かった。リディアに食べてもらいたくてわざわざ取り寄せたんだよ」
それは、今までリディアが食べたことのない、とても素朴な味でした。いつもエドガーがご馳走してくれる料理とは、全然違う味です。
初めて味わうその美味しさに、すぐさまエドガーへの怒りもどこかへ消えてしまいました。あっという間にじゃがいもを食べ終わり、リディアは次に何を食べようかと鍋の中を覗き込みます。
「エドガーは食べないの? すごく美味しいわよ」
「うん? 僕はいいんだ。後でもっと美味しいものを頂くつもりだからね」
「そうなの」
エドガーは伯爵ですから、いつでも美味しいものが食べれるのでしょう。それならと、エドガーを気にすることなくリディアはお皿に具をよそっていきます。エドガーに見つめられているのが気になりましたが、どうせそんなのはいつものことです。
これはどんな味がするのだろうと、白い筒状のものにフォークをさして、食べようとした時のことです。
つるっとフォークからすべったそれが、お皿の中にぽちゃんと落ちました。熱いスープが、リディアの頬に跳ねました。
「あっつ…っ」
「リディアっ?」
慌てたエドガーが、リディアの頬を押さえます。そして、何を思ったのか、ぺろんとリディアの頬を舐めたのです。
「え、エドガー…っ?」
一瞬、熱さも忘れてリディアは声を上げました。
「痕になると大変だろう? ちゃんと冷やさないと」
だったら氷かなんか持ってきて、と思うのですが、リディアにそう言わせる暇を与えず、エドガーはぺろぺろとリディアの頬を舐め続けます。
「あ、あの、エドガー……もういいってば。離れてよ」
「残念」
胸を押して無理やり身体を離すと、エドガーは舌でぺろりと唇を舐めました。何だか、獲物を前にされているようで、一気に落ち着かない気になります。
「今度は気をつけて食べるんだよ。また火傷をするようなら、本当に僕が食べさせるからね」
そう言われては、気をつけないわけにはいきません。エドガーに食べさせてもらったなんてことがニコにばれたら、ますますバカにされてしまいます。
フォークをぐっとにぎりしめると、リディアはゆっくり食べ始めました。あまりに真剣に、そして美味しさに夢中になっていたので、机の中に入った足を、隣のエドガーになでられていることにも気づきません。エドガーの顔がだらしないぐらいゆるんで、尻尾がぱったぱったしていることなんて、全くわからなかったのです。
何かに夢中になると周りのことが見えなくなる、リディアのそんなところをエドガーはとても可愛いと思っています。けれど同時に、こんなに無防備では、本当にいつ他の男にとられやしないかと不安になってしまうのも確かです。
「ん……」
そんなエドガーの複雑な胸中には気づかず、リディアは次々と美味しい料理を頬張っていきます。
けれど中に一つ、なかなか噛み切れないものがあります。はぐはぐと咥えたまま、リディアは何とか噛み切れないものだろうかとがんばります。
「……リディア」
なに、と聞こうにも、口が塞がれているので声が出せません。
顔だけエドガーの方に向けると、その顔が思ったよりも近い位置にあってリディアは驚きました。
「手伝ってあげよう」
そう言うと、さらにエドガーの顔は近づきました。
噛み切れなかったそれを、エドガーの口が咥えます。猫妖精よりもずっと鋭い牙が、容易く噛み千切ると、むしゃむしゃと食べてしまいます。ちょっぴり残念に思いながら、リディアは小さくなったそれを飲み込みました。
「うん、美味しいね」
「食べたいのなら、鍋からとって食べればいいのに。ほら、たくさんあるのよ」
「リディアの食べてるのが食べたかったんだよ。うん、リディアの味だね」
ぺろ、と唇をなめながら、エドガーは妙に熱っぽい視線でリディアを見つめます。最近、エドガーはこの手の視線でリディアを見つめることがよくあるのです。
急に、食べている物の味を感じなくなってしまいました。それに、急にお腹がいっぱいになってしまったようです。
「あれ? もういいの?」
「えぇ……あの、美味しかったわ。少しもらって帰っちゃダメ? ニコにも食べさせてあげたいの」
「あぁ、あの猫か……まぁいいよ、君の頼みだからね」
リディアはほっとして微笑みました。エドガーのことは嫌いなニコですが、美味しい物には目がないので、伯爵低へ遊びに行くと言ったら、とても羨ましそうな顔をされたのです。
「ありがとう、エドガー。ニコも喜ぶわ」
言いながら、リディアは立ち上がりました。きっとすぐにでも召使が来て、お土産の分を取り分けてくれると思ったのです。
ですが、エドガーは召使を呼んではくれません。それどころか、ぐっと距離を縮めると、リディアの顔を覗き込んで言うのです。
「ねぇリディア」
「な、なに?」
「今の料理も、この机も。遠くからわざわざ取り寄せたものだって言ったよね?」
「え、えぇ、聞いたけど」
「だからね、けっこうな費用がかかったんだよ」
エドガーは、一体何を言いたいのでしょう。何だか嫌な予感がして、リディアの耳はへなへなとぺちゃんこになっていきます。
「まさかそれをタダで食べて帰れるとは思ってないだろうね?」
「えっ。で、でもあたし、お金なんか持ってないわ」
慌ててリディアはエドガーを見上げます。今までエドガーがリディアにご馳走をしてくれる時、それがどんなに高価なものだって、お金を要求してくることなんてなかったのだから驚きです。
「あぁ、僕もまさか君からお金を巻き上げようだなんて思ってないよ。大丈夫、別のもので払ってもらうから」
「別のもの……?」
でもあたし、何も持ってないわと、言おうとしたリディアの呟きは、エドガーの唇に吸い込まれてしまいました。
突然のことに、リディアはびっくりして両目を開きます。耳がぴんっと立ち、尻尾も垂直になりました。
ずいぶん長いこと唇を塞がれていたので、あともう少しで呼吸困難になってしまうところでした。やっと唇を離してくれたエドガーは、リディアの顔を覗き込むとにんやりと口元を歪めました。
「そう、君の身体で払ってもらうから、覚悟してね」
そしてリディアは今日も、美味しく狼さんに頂かれてしまいましたとさ。
狼さんのお誘いには、くれぐれもご用心を。
エドガーの家は、この辺りでは一番の大きなお屋敷です。普通の妖精達が気軽に近づける場所ではないのですが、リディアだけは別でした。何と言っても、屋敷の主であるエドガーに、本人の自覚はないまでも、それはもう気に入られているのですから。
でも、最近のエドガーは、少し変なのです。この前だって、いきなりあんな痛いことをしてきたし……大丈夫かしら、とリディアは少し不安になりました。でも、昨日声をかけられた時、エドガーはこう言っていたのです。美味しい物があるからおいで、と。
妖精達は、みんな美味しいものに目がありません。これまでも、エドガーが珍しいお菓子やら果物やらをご馳走してくれることはありました。最近のエドガーはちょっと変だけど、でも相変わらずリディアが困っていればいつだって助けてくれるのですから。
大丈夫よね、と思いなおして、リディアはエドガーの従者のレイヴンに案内されるまま、屋敷の中を歩いていきます。案内がなければエドガーのいる部屋までたどり着けないぐらい、このお屋敷は本当に広いのですから驚きです。
「やぁ、リディア。よく来てくれたね、僕の妖精」
部屋に入ると、早速エドガーが出迎えてくれます。尻尾をぱたぱたと振って、本当に嬉しそうです。でもリディアは、エドガーのものになったつもりなんかありません。
「こんにちは、エドガー。美味しい物ってなあに?」
「その前に、ほら、これ。この前見つけたんだ」
そう言うと、エドガーはそっとリディアの髪を手にとります。リディアの心臓が少し騒がしくなりました。以前はエドガーに髪を触られても別に平気だったのに、今はどうにも落ち着かない気分で、尻尾がぱたぱたと動いてしまいます。
もぞもぞと身体を動かすリディアの髪に、エドガーは白い可愛らしいレースを編みこんでいきます。この辺では目にしない、とても上等なレースの端が、目の前でひらひらと揺れています。
「ほら、できた。うん、思った通り、君のキャラメル色の髪によく似合う」
「そ、そう……?」
「うん。ますます甘くて美味しそうだ」
そう言うと、エドガーはリディアの髪にキスをします。恥ずかしくなって、リディアはばっとエドガーから離れました。
「あ、あの……用事がないのなら、あたし帰るわよ。これでも暇じゃないんだから」
「あぁ、わかってるよ。こっちにおいで、リディア」
そう言ってエドガーは、リディアを続き部屋へと案内しました。美味しい物は、そこに用意されているのでしょうか。首を傾げながら、リディアはとことことエドガーについていきます。
「これ、なあに?」
部屋の中には、小さな机が置かれていました。変な布がついていて、真四角な机です。
その上に乗っている大きな風変わりな鍋からは、今まで嗅いだことのないいい香りが漂ってきます。くん、とリディアは鼻を鳴らしました。
「これはね、人間界でも遠い国でよく食べられているものなんだ。この机も、そこで使われているものなんだよ。寒いこの時期にはぴったりなんだ」
「だって、これ、椅子がないわよ。どこに座るの?」
「これは直接床に座るんだ。僕も初めて見た時は驚いたけどね、これがけっこう心地よいものなんだよ」
床に座る? 驚くリディアの前で、エドガーはさっさと床に座り込むと、机についている布の中に両足を突っ込んでしまいました。リディアは目を丸くします。
「ほら、リディアもおいで。いつまでもそこにいると寒いだろう?」
猫妖精は、妖精の中でもとくに寒さに弱いのです。戸惑いながらも、リディアは誘われるままに座り込むと、布の中に足を入れてみました。
「温かい……」
ベッドの中にいるようなものか、と思ったのですが、それとも違います。中は思ったよりもずっと温かいのです。
「だろう? それにほら、こっちの料理も美味しいんだよ。きっとリディアは気に入ってくれると思うな」
言いながら、エドガーは鍋の蓋を開けます。リディアは、わくわくしながらその中を覗き込みました。
何だか見たこともないものが、たくさん入っています。けれどよく見れば、中には見知ったものもあります。あれはじゃがいも、これは卵でしょうか。ウィンナーも入っています。
「美味しそう……これ、食べていいの?」
「うん、もちろん。あぁだけど、待って。君は猫舌だから冷まさないと」
お皿に色々な具をよそると、エドガーはそれをふーふーと冷ましてくれます。まるで小さな子供に対する態度のようで、リディアは顔を赤くしました。
「エドガー……あの、自分で食べれるからいいわよ」
「ダメ。それで君が火傷なんかしたらどうするんだい?」
どうするもこうするも、別にそれぐらいどうってことないじゃないとリディアは思う。
「はい、リディア。ほら、口開けて」
「だ、だから、自分で食べれるったら!」
口元まで運ばれたフォークを、リディアは無理やり奪い取りました。隣にいるエドガーは、わざとらしいほど眉を下げます。
「せっかくだから食べさせてあげるのに……だれもいないんだから恥ずかしがらなくていいんだよ、リディア」
「あたしは小さな子供じゃないのっ!」
確かに、狼妖精は猫妖精よりもずっと力のある妖精です。猫妖精で、さらに年下の女の子であるリディアは、エドガーからすれば子供のように見えるのかもしれませんが、リディアからすればたまったものではありません。
ぷりぷりと怒りながら、エドガーをあえて無視するように顔を逸らすと、リディアはフォークの先に刺さったじゃがいもを口の中に入れました。
「あ……おいひい」
「本当? 良かった。リディアに食べてもらいたくてわざわざ取り寄せたんだよ」
それは、今までリディアが食べたことのない、とても素朴な味でした。いつもエドガーがご馳走してくれる料理とは、全然違う味です。
初めて味わうその美味しさに、すぐさまエドガーへの怒りもどこかへ消えてしまいました。あっという間にじゃがいもを食べ終わり、リディアは次に何を食べようかと鍋の中を覗き込みます。
「エドガーは食べないの? すごく美味しいわよ」
「うん? 僕はいいんだ。後でもっと美味しいものを頂くつもりだからね」
「そうなの」
エドガーは伯爵ですから、いつでも美味しいものが食べれるのでしょう。それならと、エドガーを気にすることなくリディアはお皿に具をよそっていきます。エドガーに見つめられているのが気になりましたが、どうせそんなのはいつものことです。
これはどんな味がするのだろうと、白い筒状のものにフォークをさして、食べようとした時のことです。
つるっとフォークからすべったそれが、お皿の中にぽちゃんと落ちました。熱いスープが、リディアの頬に跳ねました。
「あっつ…っ」
「リディアっ?」
慌てたエドガーが、リディアの頬を押さえます。そして、何を思ったのか、ぺろんとリディアの頬を舐めたのです。
「え、エドガー…っ?」
一瞬、熱さも忘れてリディアは声を上げました。
「痕になると大変だろう? ちゃんと冷やさないと」
だったら氷かなんか持ってきて、と思うのですが、リディアにそう言わせる暇を与えず、エドガーはぺろぺろとリディアの頬を舐め続けます。
「あ、あの、エドガー……もういいってば。離れてよ」
「残念」
胸を押して無理やり身体を離すと、エドガーは舌でぺろりと唇を舐めました。何だか、獲物を前にされているようで、一気に落ち着かない気になります。
「今度は気をつけて食べるんだよ。また火傷をするようなら、本当に僕が食べさせるからね」
そう言われては、気をつけないわけにはいきません。エドガーに食べさせてもらったなんてことがニコにばれたら、ますますバカにされてしまいます。
フォークをぐっとにぎりしめると、リディアはゆっくり食べ始めました。あまりに真剣に、そして美味しさに夢中になっていたので、机の中に入った足を、隣のエドガーになでられていることにも気づきません。エドガーの顔がだらしないぐらいゆるんで、尻尾がぱったぱったしていることなんて、全くわからなかったのです。
何かに夢中になると周りのことが見えなくなる、リディアのそんなところをエドガーはとても可愛いと思っています。けれど同時に、こんなに無防備では、本当にいつ他の男にとられやしないかと不安になってしまうのも確かです。
「ん……」
そんなエドガーの複雑な胸中には気づかず、リディアは次々と美味しい料理を頬張っていきます。
けれど中に一つ、なかなか噛み切れないものがあります。はぐはぐと咥えたまま、リディアは何とか噛み切れないものだろうかとがんばります。
「……リディア」
なに、と聞こうにも、口が塞がれているので声が出せません。
顔だけエドガーの方に向けると、その顔が思ったよりも近い位置にあってリディアは驚きました。
「手伝ってあげよう」
そう言うと、さらにエドガーの顔は近づきました。
噛み切れなかったそれを、エドガーの口が咥えます。猫妖精よりもずっと鋭い牙が、容易く噛み千切ると、むしゃむしゃと食べてしまいます。ちょっぴり残念に思いながら、リディアは小さくなったそれを飲み込みました。
「うん、美味しいね」
「食べたいのなら、鍋からとって食べればいいのに。ほら、たくさんあるのよ」
「リディアの食べてるのが食べたかったんだよ。うん、リディアの味だね」
ぺろ、と唇をなめながら、エドガーは妙に熱っぽい視線でリディアを見つめます。最近、エドガーはこの手の視線でリディアを見つめることがよくあるのです。
急に、食べている物の味を感じなくなってしまいました。それに、急にお腹がいっぱいになってしまったようです。
「あれ? もういいの?」
「えぇ……あの、美味しかったわ。少しもらって帰っちゃダメ? ニコにも食べさせてあげたいの」
「あぁ、あの猫か……まぁいいよ、君の頼みだからね」
リディアはほっとして微笑みました。エドガーのことは嫌いなニコですが、美味しい物には目がないので、伯爵低へ遊びに行くと言ったら、とても羨ましそうな顔をされたのです。
「ありがとう、エドガー。ニコも喜ぶわ」
言いながら、リディアは立ち上がりました。きっとすぐにでも召使が来て、お土産の分を取り分けてくれると思ったのです。
ですが、エドガーは召使を呼んではくれません。それどころか、ぐっと距離を縮めると、リディアの顔を覗き込んで言うのです。
「ねぇリディア」
「な、なに?」
「今の料理も、この机も。遠くからわざわざ取り寄せたものだって言ったよね?」
「え、えぇ、聞いたけど」
「だからね、けっこうな費用がかかったんだよ」
エドガーは、一体何を言いたいのでしょう。何だか嫌な予感がして、リディアの耳はへなへなとぺちゃんこになっていきます。
「まさかそれをタダで食べて帰れるとは思ってないだろうね?」
「えっ。で、でもあたし、お金なんか持ってないわ」
慌ててリディアはエドガーを見上げます。今までエドガーがリディアにご馳走をしてくれる時、それがどんなに高価なものだって、お金を要求してくることなんてなかったのだから驚きです。
「あぁ、僕もまさか君からお金を巻き上げようだなんて思ってないよ。大丈夫、別のもので払ってもらうから」
「別のもの……?」
でもあたし、何も持ってないわと、言おうとしたリディアの呟きは、エドガーの唇に吸い込まれてしまいました。
突然のことに、リディアはびっくりして両目を開きます。耳がぴんっと立ち、尻尾も垂直になりました。
ずいぶん長いこと唇を塞がれていたので、あともう少しで呼吸困難になってしまうところでした。やっと唇を離してくれたエドガーは、リディアの顔を覗き込むとにんやりと口元を歪めました。
「そう、君の身体で払ってもらうから、覚悟してね」
そしてリディアは今日も、美味しく狼さんに頂かれてしまいましたとさ。
狼さんのお誘いには、くれぐれもご用心を。
このお話は、sick chameleoneの独楽さんに了承をもらって書いています。独楽さんありがとう…!
絵チャにお邪魔してる時に、私がおでんを食べていたのがきっかけです。
「ハウルはおでん食べてても全然平気だけど、エドガーには食べてもらいたくないなぁ」
「あ、でも、リディアが気に入ったらコタツからそろえるよ!」
な感じで、こんな話になりました。んもう、おでんからどれだけの萌えが発生していたことか!
人様のキャラで悶えまくっておりました。妄想しすぎ暴走しすぎ。
本編の可愛くかつピンクな雰囲気が全然無いのですが、独楽さんファンの方お許しを…!
私は書けてとっても楽しかったですー。よければまたやらして下さい!
お口直しには、どうぞ上のリンクから本家オオカミさんをお読み下さいね〜♪
(07.2.27)
絵チャにお邪魔してる時に、私がおでんを食べていたのがきっかけです。
「ハウルはおでん食べてても全然平気だけど、エドガーには食べてもらいたくないなぁ」
「あ、でも、リディアが気に入ったらコタツからそろえるよ!」
な感じで、こんな話になりました。んもう、おでんからどれだけの萌えが発生していたことか!
人様のキャラで悶えまくっておりました。妄想しすぎ暴走しすぎ。
本編の可愛くかつピンクな雰囲気が全然無いのですが、独楽さんファンの方お許しを…!
私は書けてとっても楽しかったですー。よければまたやらして下さい!
お口直しには、どうぞ上のリンクから本家オオカミさんをお読み下さいね〜♪
(07.2.27)