何かが『在る』ことはわかっていた。久しぶりの客人かと、メロウの宝剣を片手に森の中までやって来たが、その客人が地面に転がっているというのは予想外だった。
「これで、寝てる、とかいうオチだったら、大したものだと感心するところだけどね」
そうでないことは、もちろんわかっていた。そうして、ぴくりとも動かないそれが、死んでいないということも。
彼らに訪れる死は、そのまま消滅を意味する。その命が消えると共に、身体も塵となって消え失せるのだ。死体の処理をする必要がなくて結構なことだとエドガーは思う。
恐らくは、意識を失っているのだろう。けれど油断をすることはなく、抜き身の宝剣を構えたまま、エドガーはゆっくりと歩を進めた。襲い掛かってくるようなことがあれば、すぐさま胸を一突きにできるようにと。
けれど、それが動く気配はなかった。エドガーは慎重にしゃがみ込み、顔を覆っていた髪を払いのけた。現れた、愛らしいその顔に驚く。
「エドガーさま」
「あぁ……おまえも来たのか、レイヴン」
エドガーが感じ取った気配に、彼の従者もまた気づいたのだろう。そうして何度もエドガーの危機を救ってくれた。
「始末しますか?」
「そうだね。そうしようと思ったんだけど……」
「どうかなさいましたか?」
珍しくも煮え切らないエドガーの返事に、レイヴンは驚いたようにそう尋ねる。と言っても、表情の浮かばないレイヴンの顔はいつも変わらない。エドガーだけにわかる、些細な変化だ。
「まだ子供だ」
返事は無い。レイヴンにとって、年齢は意味を持たない。子供であろうと老人であろうと、それが害をなすものであれば、答えは同じだ。
「それに、見たところ外傷は無い。こんな所で倒れているのも気になるし……事情を聞いて損は無いと思う。もちろん、素直に教えてくれればの話だけどね。抵抗するようなら、その時に始末をすればいい」
無抵抗な相手を殺すのには少々の躊躇いが生じるが、そうでないのなら話は別だ。迷うことなくこの宝剣で胸を突けるだろう。今までも何度もそうしてきた。
「では、屋敷に運びますか?」
「あぁ、そうしよう」
エドガーが頷くと、躊躇せずにレイヴンはそれを抱え上げた。目を開く様子は無い。俊敏な動きで知られるそれの、ここまで無防備な姿を、エドガーは初めて見た。まだ子供だからなのかもしれない。
そうしてその日、アシェンバート伯爵邸には、一人の吸血鬼が運びこまれた。