FACE TO FACE
A5/表紙FC/44P/¥500
08年スパコミ発行、夏コミ完売
一樹夜深さんとの合同誌。表紙、漫画を夜深さんが、あぷりは短編を2話書きました。
婚約時や新婚時代の、ほのラブな1冊になりました。すごく楽しかったです^^
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社交の季節が、もうそろそろ終わりを告げようとしている。
リディアが初めてアシェンバード伯爵家のパーティーに招かれたのも、そういえばこの時期だった。エドガーとお揃いのコーラルピンクの薔薇を胸につけて―――と言うよりは、付けられて―――参加したパーティーのことは、今でもよく覚えている。ムーンストーンの指輪がリディアの手元に転がり込んできたのはその時だったのだから。
思い出しながら、リディアはクッションの上で身体をずらした。
「……目が覚めた?」
揺れ動く馬車の中で、眠ってしまったリディアの身体が崩れ落ちないように、ずっと抱きしめてくれていたのはエドガーだ。
「えぇ。ごめんなさい、いつの間に眠っちゃったのかしら……暇だったでしょう?」
馬車の中には、二人きりというわけではない。向かいの席にはレイヴンが座っているが、彼はとても一緒におしゃべりを楽しめるような饒舌な相手ではない。昔よりかはだいぶ感情豊かにはなっているけれど、それでもまだレイヴンの言動はどこか人並みはずれているし、無表情なのもいつものことだ。
そのレイヴンに、ずっとエドガーに抱きしめられているところを見られてしまっていたのだ。別に彼は気にしないだろうが、リディアは今更ながらに恥ずかしくなって、頬を染めながら居眠りをしていた間に乱れてしまった髪を手櫛で整えた。
「いや。可愛い寝顔を堪能していたからね。暇だなんて思わなかったな」
そんなふざけた台詞も、まばゆい金髪と扇情的な灰紫の瞳を持ったエドガーが言えば、とたんに甘い囁きになる。
もう結婚してから数ヶ月が経つ。それこそ、婚約する前からもずっと聞かされていたそんな台詞に、いい加減そろそろ慣れてもいいはずなのに、未だにリディアはエドガーの甘い台詞を聞かされる度に、恥ずかしいし顔は赤くなってしまうし、たまに怒鳴り返してしまうしで上手く行かない。
まあ、こんな台詞を平気で聞けるようになっても嫌だけど。
「あたしの寝顔なんて、もう見慣れたでしょ」
何せ、結婚してからは当然のように同じ寝室で眠っているのだ。今更寝顔一つで騒ぐようなことは何も無い、とリディアは自分自身に言い聞かせる。
「うんでも、ベッドの上での君は、どっちかっていうと疲れ果てて眠ってるって感じだから。あぁ、そうさせているのは僕だってわかってるけどね。でもこんな風に、転寝を楽しんでいる無防備な寝顔はまたそれとは違った魅力があって……」
「ば、バカっ! 何言い出すのよ!」
慌ててリディアは手袋をはめた手でエドガーの口を塞ぐ。そうしながら、ちらりとレイヴンに視線を送ると、わざとらしくレイヴンは視線をそらした。聞かれたに決まってる。
優しくリディアの手を口から引き剥がすと、当然のようにその手の平にキスを落としてからエドガーはにっこりと微笑む。レイヴンの前で変なことを言ってと、怒った顔をしてみせるリディアだが、エドガーのそんな微笑を見ていると、怒っているのもバカらしく思えてしまう。エドガーには、そんな笑顔一つで女性を思い通りにさせることなんてわけないのだ。
「……本当に、スコットランドに出てきちゃって良かったの?」