Honey days

A5/表紙特殊紙FC/40P/¥500
08年春コミ発行、夏コミ完売
3つの話を収録した短編集。兄妹シリーズから1話と、残り2つは現代英国幼馴染物。
パラレルな1冊。無防備なリディアに悶々とするエドガーが書けたのでとりあえず満足でした。
「君ほど考えなしな女の子を、僕は他には知らないよ、リディア」
けれどそんなことはなかった。
やっぱり、エドガーは怒っている。
逃げ出そうと身を起こしたけれど、エドガーがそんなことを許してくれるはずもなかった。気づいた時には両手首をつかまれ、リディアは再びベッドに横になっていた。
すぐ真上にはエドガーの顔がある。整った顔立ちは、今は険しくなってはいなかった。何の表情も読み取れない顔。レイヴンに少し似ている。けれどレイヴンよりかはずっと深い顔だ。
居心地が悪い。エドガーがどいてくれれば、リディアを押さえつけているこの手を離してくれれば、もう少しは楽に呼吸ができるのに。
リディアもよく眠っているこのベッドが、急に知らない場所になってしまったようだった。シーツの冷たさも、かすかに香るエドガーと同じ香りも。
「君は僕を傷つけるのが上手いね。……怒らすのも」
付け足されたその言葉の冷ややかさに、リディアはぞくりと背筋を震わせた。
エドガーの指が、そっとリディアの頬を撫でる。いつもの行為。けれど今のそれには何か別の意味合いが隠されているように思えて、リディアは身動きもできなくなる。
エドガーはリディアを傷つけたりはしない。殴ったりなんて乱暴なことをするはずがない。なのに今、どうしてか怖くて仕方ない。瞬きもできずに、じっとエドガーの顔を見つめてしまう。
「僕よりポールと一緒にいたいって?」
そんなことを言っただろうか。
頭の中がぐるぐるとして、自分が何を言ったのかももうよくわからない。頷くことも、否定することもできずに、リディアは息をひそめていた。
「許さないよ、そんなこと」
―――兄妹シリーズ 『なんて我侭な、君は』より
「リディア。どうしたんだ、こんな夜中に」
「えっと……あの、ちょっと」
笑顔で迎えてくれるものだとばかり思っていたエドガーが、どうしてか険しい顔をしているから、ちょっと話がしたかったのなんて言えなくなってしまった。
「……もう寝るとこだった?」
邪魔をしてしまったのだろうか。
「いや、まだ起きてたよ。だけど君は―――」
そう言うと、エドガーはリディアの持っていた枕へと視線を落とした。そうして、何かとんでもなくまずい物を見つけたような顔になる。母親が、子供の持って帰ってきた零点のテストを見つけた時のような。
「……リディア」
重々しく名前を呼ばれる。思わず背筋がぴんと伸びた。
ドアを開けたまま、エドガーは壁に腕をかけ、リディアを見下ろすように立っている。どうやら部屋の中には入れてくれるつもりは無いらしい。
「あのね、リディア。確かに僕らは家族のような付き合いをしてはいるけどね。でも、僕は君の父親でも兄でも無いんだ。お願いだから、少しは自覚をしてくれ。僕らはもう子供じゃないんだ」
お願いだから、というエドガーの台詞は切羽詰っているようで、どうしてそんな声を出すのかわからないリディアは首を傾げるだけだ
った。
そんなリディアに、エドガーはため息をつく。まいったな、と額を押さえながら。いつも余裕のあるエドガーが、珍しく本気で困っているように見えて、そうして困らせているのが自分だとわかって、リディアはどうしたらいいのかわからなくなる。
「君にとって僕は、きっとカールトン教授とそう変わらない立場にいるようなものなんだろうね」
そして、自嘲気味にそう呟く。
「……あの、エドガー」
―――英国的蜜色デイズ より