Lovers concerto

表紙は美里さんにお願いしました。発の伯妖本でした。
とにかく伯妖本を出したい! との熱意の元に発行した1冊^^ 笑
美里さんに漫画を数ページ描いてもらい、その続きをあぷりが小説で書きました。
原作婚約後設定。ページの穴埋めに小話も入っていたりします。

07年3月春コミ発行/08年3月春コミ完売
「エドガーは、今日はいるの?」
「そろそろ起きられる頃だと思いますが」
 それはまた、ずいぶん遅い。
 リディアの眉が寄ったのに気づいたのか、少し慌てたようにトムキンスは口を開いた。
「昨夜は、男性方とカードゲームに興じられていたようで」
「別に、浮気を疑ってるわけじゃないわ」
 まさか、顔に出ていたのだろうか。何だかそれでは、リディアがまるでとてつもなく焼餅焼きなようだ。けれどエドガーの場合、前科が前科だから、ついついちらっと頭の片隅で、色々なことを考えてしまうのは仕方ない。
「エドガーは浮気なんかしないわ」
「それはもう、リディアさんとのご結婚を楽しみにされてますから。私なんて、仕事中何度その話題を持ち出されたことか」
 恥ずかしいから止めてほしい、とリディアは思った。もしかして、行く先々で吹聴してたりするんだろうか。
「そうじゃなくて、どこで妖精達が見てるかわからないでしょう? あたしと結婚するのなら浮気はできないってわかってるはずだもの。口ではいくら言えても、妖精達は誤魔化せないから」
 ね? と微笑むと、トムキンスも笑って頷いた。妖精と会話ができて良かったと思うのが、恋人の浮気発見に役立つ時だなんていささか情けないが、でもその脅し文句は本当にエドガーには効き目がありそうだった。実際、妖精達がエドガーの色々な行動を知らせてくれたことは何度もある。
 後で紅茶を持ってきますと言い残して、トムキンスは部屋から出て行った。残されたいくつものプレゼントの箱をどうしようかと、リディアが困り果てているとゆっくりと扉が開かれた。
「エドガー」
「おはよう、リディア。あぁ、今日も可愛いね。恋をすると女性が美しくなるというのは本当だって実感するな。だって君は日ごと綺麗になっていくから」
 颯爽と近づいてきたエドガーは、当然のようにリディアの髪を手にとると口付ける。婚約者になってからは、あまりあからさまに嫌がるのも悪いだろうと思って何とか我慢しているが、お願いだからあまり恥ずかしいことはしないで欲しいとリディアは思う。今日だって、後ろにレイヴンがいるのに彼はまったくお構いなしだ。もっとも、それは出会った時からではあるのだけれど。
「君が綺麗になっていくのは嬉しいけど、でもあんまりその魅力を僕以外に振りまかないでほしいな。害虫駆除はお手の物だけど、なるべくなら面倒なことはしたくない」
「あのね、綺麗になってるとか、それはあなたの目の錯覚。っていうか、害虫駆除はお手の物って何よそれ?」
「君ほど自分の魅力に気づかないお嬢さんは初めてだよ。まぁ、そんなところが可愛くもあるんだけどね」
 リディアの質問には答えず、エドガーはさっさと椅子に腰掛けてしまう。黙って付き添っていたレイヴンはお茶を入れ始めた。
「ちょっと。人の仕事部屋でくつろがないでちょうだい。これから仕事するんだから」
「こんな朝早くから? いいじゃないか、一緒にお茶ぐらい飲んだって。君は夜になると帰ってしまうんだし、少しぐらい二人でのんびりする時間があったって罰は当たらない」
「まだ結婚してないんだから家に帰るのは当たり前でしょうっ? 最近は昼食だって一緒に食べてるし、午後のお茶だってそうじゃないの。十分のんびりしてるわ」
 あたしは少し仕事がしたいの、と言えば、エドガーは心外そうに眉を寄せた。まるで、リディアの方が間違ったことを言っているかのように。
「リディア、僕たちは恋人同士なんだよ」
「い、言われなくたってわかってるわよ……」
 というか、恥ずかしいから面と向かって言わないで。
「結婚を目前に控えた恋人同士なんだから、一日中でも一緒にいたいと思うのが普通じゃないのか?」
「まだ目前じゃないでしょ。それに、一日の半分近く一緒にいれば十分だわ」
「僕には足りない」
 まるで、朝食に出されたパンがこれじゃ足りないと言うかのような、不平不満に溢れた声音だった。子供じゃないんだし、少し我慢しなさいよと怒鳴りつけたい気持ちを、リディアはがんばって抑える。このぐらいで怒鳴っていては、とてもじゃないがエドガーとの結婚生活が上手くいくとは思えない。
「足りないぐらいでちょうどいいと思うわ。ほら、いくら美味しいお菓子だって、もうちょっと食べたいってところで終わりにしておくのが一番いいでしょう? お腹いっぱい食べちゃうと、飽きちゃったりするじゃない」
 何だか少しずれた例えかもしれない。
 そう思ったリディアは、エドガーが立ち上がり、妙ににこやかな笑顔を浮かべながら目の前に立ったことを不思議に思った。どうしてこの人、こんなに笑ってるのかしら。
「そうだね、リディア。確かにそれは君の言う通りかもしれない」
「……そうでしょう? ね、だからお願いだから仕事をさせ」
「つまり」
 させて、と言おうとしたリディアの言葉をエドガーは遮った。
「君は、自分自身が僕の甘いお菓子だってことを認めるんだね」
「なっ」
 何でそうなるの!
「ちょ、ちょっと待ってよ。今のは例えよ、例え」
「まさか君自身、そんな自覚があっただなんてね。どうりで今日は、このキャラメルがいつもよりも美味しそうに僕を誘ってると思ったよ」
 それは単にエドガーの気のせい。
(っていうか、妄想かも)
 そう思ってリディアは逃げようとしたが、それよりも先にエドガーは彼女の腕をつかむ。まずい、と思ってレイヴンを見たが、エドガーに忠実なレイヴンは、わざとらしく視線を逸らした。