Lunaria


「リディア、隠し事はなしよ。昨日一緒に歩いてた男の人はだれ? お付き合いしてるの?」
 なんて、学校について顔を合わせるなり尋ねられたら、だれだって少なからず驚くものだと思う。
 机に身を乗り出すようにして顔を近づけてくるクラスメイトを眺めながら、あたしはぽかんと口を開けた。
 昨日の行動を思い出しながら、あぁ、と行き着く答えが一つ。
 それって、もしかしなくても。
「……あの、一緒にいたのなら、あたしの兄だけど」
「嘘!」
「金髪で、背の高い男の人でしょ?」
 それでもって、憎たらしくなるぐらいには顔の整った。
「えぇ、そうよ。本当にリディアのお兄さんなの?」
 そう尋ねてくる理由だってわかっている。今までずっと、何回この手の台詞を聞いてきたことだろう。耳にタコなんて、もう何匹ぶら下がっているかわからないぐらい。
「あたしと兄さま、あんまり似てないから」
 あんまりというか全然だけど。
「何だ、そうだったのね。本当、似てないから、よその男の人だと思っちゃったわ」
 勘違いしたことを照れるように、クラスメイトは小さく笑って見せた。慣れたものだからあたしも笑って返す。
 エドガーと一緒に歩いていても、兄妹だと一目見て当てる人はほとんどいない。父さまが一緒にいればまた違うけど、二人でいる時に兄妹だと思われることは昔からまず無い。
 よくて親戚、あるいは学校の先輩と後輩とか。エドガーの友達に、「近所の子?」と聞かれたこともある。それが最近になって、恋人に間違われるようになったのは、何だかひどく居心地の悪い気分だ。
 だって、実の兄が恋人って。
 そりゃあ、確かにあたし達は似てるとこなんてどこにも無いけど。あたしの身近にいる年の近い男の人なんて、それこそエドガーぐらいしかいないけど。
 でもそれでも、あまりに自分がもてないみたいで悲しくなる。それが事実だから余計に。
「すっごく優しそうなお兄さんなのね」
 恋人じゃないとわかって興味は失せたかと思いきや、そんなことはないようで、友人は隣の席に座り込んだ。
「えぇと、そうかしら」
「そうよ! だって、リディアの荷物全部持ってくれてたし、その上アイスまで買ってくれてたじゃない」
「……よく見てたのね」
「あ、ごめんなさい。声かけようと思ったんだけど、邪魔をしちゃ悪いかと思って」
 恋人だと思ったから、遠慮をしてくれたんだろう。そんな必要はどこにも無いのに。
 自分の知らないところで、友達が自分のことを見ていたってわかるのは妙な気分だ。変な顔をしてなかったかなとか。まあどうせ、見られてたのはあたしじゃなくてエドガーの方なんだけど。
 どこにいたって、エドガーは人の視線を集めて仕方ない。自然と人目を惹き付ける。顔立ちも髪の色も何もかもが似ていないけど、一番違うのはそんなところだ。あたしには人を惹き付けるようなものは何もない。
「男の人って、すぐ怒る感じがしてちょっと苦手なんだけど。でもリディアのお兄さんはいいわね。絶対に怒ったりしなさそうだもの」
「そんなことないわよ」
と言って、あたしは軽い笑い声を上げた。


(アリスワールド)