「……エドガー?」
「あぁ、リディア。起こしちゃった? もう少し寝てていいよ」
柔らかな声が降ってくる。
今は何時なのだろう。もう少し寝てていいということは、朝食まではまだ時間があるということだろうか。
ぼんやりと開けた目で、エドガーの姿を追う。まだ着替えてこそいないが、エドガーは起きてからもうだいぶ時間が経っているようだった。ベッドの中で紅茶を飲みながら新聞を読み、そうしてから起き出すのがエドガーの習慣だ。
「……兄さま、寒い」
「え?」
「湯たんぽが無くなったから、寒いの」
エドガーは少しの間、毛布から出たリディアの顔をまじまじと見つめていたが、やがて口元を緩めて、吐き出すように小さく笑った。
「そんな風にベッドに誘われたのは初めてだな」
エドガーが毛布をめくると、冷たい朝の空気がベッドの中に入り込んでくる。リディアがぶるっと身体を震わせたのと同時に、エドガーの両腕がリディアの背中に回される。
すぐにまたベッドの中はほっとする温かさに満ちて、リディアは息をもらす。これならまたすぐに眠れそうだ。でもそうしたら、今度は朝食の時間に起きられないかもしれない。
「もしかして、最近君が毎晩僕の部屋にやってくるのは、湯たんぽを求めてのこと?」
「だって、一人で寝ると寒いんだもの。ベッドが広すぎるから、なかなか温かくならないでしょ?」
「君がそんなに寒がりだとは知らなかったよ。今晩からはメイドに言って……」
何を言いかけたのは、エドガーは途中で言葉を止めてしまった。メイドさんに、何をさせると言うつもりだったのだろう? まさか先にベッドに入って暖めておくようにとか? そんなバカな。
「兄さま、なに?」
「いや、何でもないよ。どんな理由であれ、君が僕を求めてくれるのは嬉しいことだからね。湯たんぽ代わりだろうが何だろうが、甘んじてその立場を受け入れるよ」
「あのね、兄さまは一々大袈裟なの」
エドガーを求めてるとか何とか……。ただの軽口だとはわかっていても、意味深な言葉に聞こえて頬が少し熱くなる。まるで恋人同士みたいだ、とぼんやり思ってしまえば、義理とはいえ家族なのにそんなことを考えてしまう自分が恥ずかしくなる。
エドガーの胸に顔を押し付けた。赤くなった顔を見られたくないというのもあったけど、それ以上に鼻が冷たいのが気になった。身体中どこもかしこも温かいのに、鼻だけが冷たい。
「ニコもいれば良かったのに」
そうすればもっと温かいのにと呟けば、エドガーは嫌そうな声を出した。
「男はベッドに入れたくないな」
「ニコは猫よ」
実際は妖精だけど、エドガーはそう思っている。
「猫だろうが犬だろうが、同性をベッドに入れる趣味は無いんだ。可愛い女の子なら歓迎するけどね。……ところでリディア、君は普段はいつもニコと一緒に寝ているの?」
「いつもじゃないわ。ニコは椅子の上で寝てるから。でも、寒い時は一緒に寝てもらうの。途中でいなくなっちゃうこともよくあるけど」
リディアの寝相が悪いと、嫌になってベッドから抜け出してしまうのだが、エドガーは納得したように「猫は気ままなものだからね」と呟く。そこまで寝相が悪いわけじゃないのにとリディアは不満に思う。
それとも、リディアが知らないだけで、よっぽどひどい寝相だったりするのだろうか? でもエドガーは逃げ出したりなんてしないし、文句を言われたことだってないから、やっぱりニコが大袈裟なだけなのだろう。そうに違いない。
「あんな猫に頼るぐらいなら、僕のところにおいで。僕には毛皮は無いけど、こうやって君を抱きしめて温めてあげることならできるよ」
「……えぇ、そうね」
だから、何だか一々恥ずかしい。抱きしめて、とか、言葉にしなくたっていいのに。抱きしめられながら思うことではないのかもしれないけど。
「あぁでも、暖めあうのなら、人肌が一番なんだけどね」
「人肌?」
(兄妹/いらないこども)