「 Dear Dear Dear 」(06年春コミ)
コピー本/A5/28P/表紙フルカラー/¥300
初ジブリハウソフィ本。二人のすれ違いちょっぴり切ないラブストーリー(希望)
表紙はこれまた初の美里さんフルカラー。それだけでも一見の価値あり♪
「髪がどうかしたの?」
柔らかな声が後ろから聞こえてきた。髪を握ったまま振り返れば、ソファに横になり、片手で分厚そうな本を開いているハウルが、じっとソフィーを見つめていた。空の色をそのまま移してきたかのような双眸を見る度に、ソフィーはまるで吸い込まれそうだと思ってしまう。
「……この髪、変かしら」
少し迷ったけれど、ソフィーはすぐさま思ったことを尋ねてしまった。そうして返ってくるハウルの答えなどはわかっていたけれど、いや、わかっていたからこそ、その言葉を聞いて安心したかっただけなのだ。
「綺麗だよ」
案の定、柔らかい微笑みと共に言われた言葉に、ソフィーはほっと息を漏らして笑顔を返すことができた。自分でも何て馬鹿なのだろうとわかっている。それでもその言葉に、嬉しさと安心感が沸き起こるのを止められなかった。
「どうして今更そんなことを気にするんだい? 今まで君は自分の髪について、何も言わなかったのに。昼食を食べながら、何度かため息をついていたね」
その所為なのかい、と尋ねられて、ソフィーは無意識の自分のその行動に驚いた。ハウルだからそれに気づいたのだろうか。
「最近、疎開していた人たちが戻ってくるでしょう? がやがや町に買い物に行く度にに、昔からの知り合いに驚かれるの。確かにそれも無理ないことだとはわかっているけど……」
わかっているけどどうなのか、その先の気持ちを上手く言葉にすることができず、ソフィーはもどかしかった。はっきりと嫌だと、そう言ってしまえるほど強い気持ちなわけではない。そうではなく、そこまでではないのだけれど……
「むず痒い?」
「そうなの!」
ぴったりな言葉に、ソフィーは「そうなのよ」ともう一度呟いて頷いた。何度も何度も同じことを言われ、自分でもわかっているけれど、それでも同じことを聞かれることの、そうして、明確な答えを返すことのできないむず痒さ。
「どうしたの、って皆聞いてくるんだけど、自分で染めたわけでもないし、気づくとこうなっていたでしょう? 原因もわからないし、だからちゃんと答えることもできなくて、いつも流すことになっちゃって……聞かれることよりも、そうしたことのむず痒さの方が大きいのかもしれないわ」
普段はそんなこと、全く気になどならないというのに、一度気にかけてしまうとすぐには頭から離れてくれないのだ。けれど自分の気持ちの上での不可解の原因がわかっただけでも、まだマシなのかもしれない。
「本当に、どうして、髪の色が変わったのかしら」
長い髪が短くなったことについては、「切った」とその一言で終わらすことができるし、実際にそれが真実だ。けれど染めたというにしても、こんな色に染める人はまずいない。大体にして、髪を染めるような人だって、ソフィーはハウル以外には知らなかった。それにしても、あれからハウルが髪を金髪にするようなことは無かったのだけれど。
「ねぇ、わたしが髪を染めたら変かしら?」
染める気など毛頭なかったが、ふと思ってソフィーはそう尋ねてみた。例え染めるとしても金髪などにはしない。きっと元の色に戻すだけだろう。
「君がしたいのならすればいい」
突き放すわけではなく、ハウルはソフィーを見て微笑みながら、あくまでも彼女の意思を尊重させる声音で言った。
読みかけの本をソファに置くと、ハウルは長い足を颯爽と動かしソフィーの傍まで寄ると、そっと髪を手に取った。
「でも、僕はこの星色の髪が、君にとてもよく似合っていると思うけどね」
ハウルは気づいていないのだろうか。
そうハウルに言われたことによって、ソフィーの頭に、金輪際髪を染めるなどということは浮かばないだろうということに。
「昼間は日の光りを受けてキラキラと輝いているし、夜でも闇に染まることは無い。……君のおかげで、僕はここにいられる」
小さく、ハウルは、手に取ったソフィーの髪に口付けた。
「は、ハウル……っ」
顔を真っ赤にしてソフィーはうろたえた。ハウルは「何?」と、それこそ何でも無いかのように尋ねてくる。ハウルはいつもこうだ。わかってやっているのか、それとも無意識なのかは知らないが、日常のふとした瞬間にソフィーをいとも簡単に振り回してくれる。けれど浮かんだ優しげな微笑に、そして幸せそうな双眸に宿った光りに、いつもソフィーは文句など言えずに、言葉を飲み込んでしまうのだ。
それに、決して。
嫌なわけなどでは、なくて。
恥ずかしくて恥ずかしくてたまらないけれど、それを上回るほどの嬉しさと幸福感に包まれて、ソフィーは幸せを一気に感じた。一日に何度も。こんなに幸せでいいのだろうかと、たまにそう自問してしまうぐらいには。
「あ、あのね、ハウル」
本当は、ファーストキッスはレモン味♪ ほのぼのラブラブぴゅあなラブストーリーを目指したんです。
でも私にはそんなのは無理だったと気づかされました。適性ってのはあるんですね。ふふ。
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