勿忘草

(表紙画像はありません。文字オンリー)
「 勿忘草 」(夏コミ)
オフセ/A5/52P/表紙特殊紙使用一色刷り/¥600
シリアス感動恋愛物。を目指しました。とりあえずシリアス。
原作一巻終了後の話。ハッピーエンドになってます。
「……そろそろ寝たらどうだい?」
 一心不乱に縫い物をしていたソフィーに、暖炉の中から気遣わしげな声がかけられました。そろそろ暖かくなっていくこの季節に少々不似合いな暖炉の中では、ぱちぱちと燃える炎が、ソフィーに何か言いたげな視線を送ってきていました。
「あぁ、ごめんなさい。眠たかったら寝ていいのよ、カルシファー」
「おいらは平気だよ。そうじゃなくて、あんたがさ」
 心配してくれているのでしょう。決して素直にそんなことを言わないカルシファーでしたが(火の悪魔ということを考えれば、それも無理からぬことでしょう)、視線は十分にそれを物語っていました。針を動かす手を止めて、ソフィーは小さく微笑みました。カルシファーのそんな優しさが、静かに体中に染み渡るようでした。
「そうね、もう少ししたら休むことにするわ」
「……へぇ」
 カルシファーは納得がいかないようでした。そう言って、ソフィーが決して「もう少し」で休むことがないことを、カルシファーは知っていたからです。彼女が人一倍働き者なことは知っていましたが、今のこれは少しそれとは違っていました。今ソフィーが繕っている洋服は、決して急がなければならない物ではありませんでしたし、ソフィーだってそれは十分にわかっていることでしょう。
 ソフィーはただ単に、起きていたいだけなのです。いえ、その言い方は少し違うかもしれませんが―――起きているつもりなのです。彼が帰ってくるまで。
「あいつなら、どうせ今日も遅いぜ」
 カルシファーは、何とかソフィーを寝かせようと、そう言葉をかけました。そんなこと、ソフィーだってわかってはいたのです。カルシファーの言葉に、ソフィーは「ええ、そうね」と小さく頷きました。けれどそれだけです。暖炉前の椅子から腰を上げようとはしませんでした。
「ソフィー」
「なぁに? 薪でも欲しいの?」
「……違うやい」



 夕飯の時間になり、自室から出てきたウォレンは、もういつもと全く変わらない態度でした。それに安心する反面、言いようのない気持ちを覚えながら、ポーリアは表面上は普段と何も変わらない態度を保っていました。それに、もしかしたら、ウォレンは気づいていたかもしれません。何せ、とても鋭い人なのですから。けれどウォレンは何も言ってはきませんでした。ただ、薬の調合が上手く行かないから、今日は先に寝ていてくれと、ポーリアは一人先にベッドに入りました。
「……ウォレンは」
 自然と口から呟きはこぼれていたのですが、そこからどう言葉を続けるつもりだったのか、ポーリア自身にもわかってはいませんでした。ただ、何かが、どうしようもなく不安でした。
 今この時ウォレンがいないことに、ポーリアは安堵していまし た。ウォレンのことがすごく好きで、いつでも一緒にいたいと思 う心は確かに存在しているというのに、けれど今この時ばかりは例外のようでした。今ウォレンがここにいても、きっと自分は、変なことを言ってしまったでしょうから。
 そんなポーリアの気持ちを、もしかしたらウォレンはわかっていたのかもしれません。その夜、ポーリアがまだ起きているうちに、ウォレンが戻ってくることはありませんでした。いつウォレンが寝室に来たのか、ポーリアは知りません。けれど気がつくとカーテンの隙間から差し込んでくる光りは眩しいもので、時刻が朝であることを告げていました。
「おはよう、ウォレン」
 朝の苦手な旦那様に、小さく額に口付けを落とし挨拶をするのは、密かなポーリアの日課となっていました。これはウォレンも知らないことです。何せ熟睡しているのですから。知ればきっと、ウォレンは涙し感激することでしょうが、照れ屋なポーリアは自分からこのことを口に出せるはずもありませんでした。よって、これは秘密の日常となっているのです。
 静かに、ウォレンを起こさないようにベッドから出て、やはり静かに着替えを済ませます。そうして簡単な食事の準備をして、出来上がる頃にウォレンを起こします。彼は寝癖のついたままでも、しっかりとポーリアにおはようのキスをして、そうして二人の朝食は始まります。毎朝、大してメニューは変わらないというのに、それでもウォレンは美味しそうに、そうしてポーリアを褒めながら食事をします。それは嬉しい反面、どうしようもなく照れくさい一時でした。そうしてポーリアは、明日こそはもう少し豪華な朝食を作ろうと決意するものの、やはり翌日になれば、朝の眠気と面倒くささに、どうしても簡単な食事になってしまうのです。日々はその繰り返しでした。それでも大事な、愛すべき毎日でした。



「でも、よくカルシファーが協力してくれたわね」
 もう契約を交わしているわけではないのに。ソフィーがそう言うと、ハウルは笑いました。まだ何かあるのです。その笑顔に、 ソフィーはすぐに気づきました。
「ハウル」
 教えて、と、強い口調でソフィーは言いました。自分には聞く権利があると思ったのも確かですが―――それ以上に、ただ、二人の間に何があったのか、それが気になったのです。
「ハウル、カルシファーに何をしたの?」
 まさか、脅しのようなことをしたのでしょうか。言うことを聞かなければ水をかけるとでも……いえ、カルシファーが本気になれば、彼はとても強い力を持っているのですから、そんなことは怖くも何ともないはずです。
「何かしたって、失礼だなぁ」
 ハウルは笑って、そのままの調子で続けました。
「代価をね、払ったんだ」





 小さく咲いた、儚い勿忘草だけが、二人を見ていました。
丘の上の小さな家で、二人で暮らしているポーリアとウォレン。
ポーリアは幸せな暮らしに満足しているのだけれど、いつからか歪みを感じるようになって……
多分シリアス恋愛物。最後はもちろんハッピーエンド。自分では気に入っていたりします(笑)