Re:LOVE

(表紙画像はありません。文字オンリー)
「 Re:LOVE 」(魔法使いの契約書)
オフ本/A5/40P/表紙特殊紙使用一色刷り/¥400
ほのぼのラブラブをテーマにして中篇から短編四つを入れてみました。
本文の紙に美弾紙コスモス(薄いピンク色)を使ってみました。可愛い。
 王室で今度舞踏会が開かれるから、それに一緒に参加してくれないかとソフィーがハウルに言われたのは、つい数日前の、夕飯の席でのことだった。
「どうしてあたしが行かなきゃいけないのよ」
 驚きの後にすぐさま浮かんだのは、ソフィーにとっては至極当然過ぎるものだった。確かにハウルは王室付き魔法使いで、そんな彼が王室での催し事に参加するのは当然だろう。けれどハウルはハウルで、ソフィーはソフィーだ。どうして花屋を営んでいるような自分に、そんな話が回ってくるというのか。
 ソフィーは目を丸くして尋ねたというのに、ハウルは呆れたようにため息をついた。その反応に、ソフィーは少しむっとする。
「どうしてってね、ソフィー! 舞踏会なんだよ、わかってるの? ただのパーティーだってそうだけど、舞踏会なんてことになった 日には、だれだって女性同伴で来るに決まってるじゃないか。あんたそんなこともわからないの? それとも、僕にあんた以外の 女性を誘えって?」
 スプーンを振り回しながらのハウルの言葉に、ソフィーは「あ ぁ」と頷いた。舞踏会なんて、あまりに自分と遠すぎる事柄なだ けに、すぐさまハウルの言いたいことが浮かばなかった。けれど同時に、何もそこまで言わなくてもいいじゃないと、そう思って気分は少し曲がってしまう。
「だけど、あたしは舞踏会なんてごめんよ。ダンスなんて踊れないし、第一場違いだもの」
 それは紛れも無いソフィーの本音だった。舞踏会なんて言葉、ソフィーにとっては物語の中に存在する単語であって、決して自分には関わりのない物だった。年頃の少女にありがちな、お城でのダンスパーティーなどに夢を膨らませるようなことはソフィーにはなかった。例え恋人が、望むと望まざるとに関わらず、そんな世界の住人であったとしても。
「そんなこと言わないでさ。いいじゃないか、一回ぐらい」
「嫌だってば。恥かくのなんて目に見えてるじゃない」
 一体どこのだれが、恥ずかしい思いをするとわかっていて、のこのこ参加するというのだろう? ハウルはさらに「大丈夫だってば!」と言っていたが、ソフィーは「嫌!」の一点張りだった。
(そんな簡単に『大丈夫』だなんて、ハウルだから言える台詞なのよ)
 ハウルのすごい所は、魔法の腕だけではなく、王室などという華やかな場にも、すんなりと溶け込めてしまうところだろうとソフィーは思う。職場なのだから当たり前と言ってしまえばそれまでだが、それよりもそれはハウルの性格ゆえのことだろうとソフィーは思う。人当たりが良く口も上手く、ソフィーはハウルが 美しく着飾った貴婦人を相手に、慣れた様子で褒め言葉を口にしている様子がありありと想像できた。そしてそれはきっと間違っ てはいないのだ。
「絶対嫌よ!」

―――月夜のワルツ より


「うちの店員に何か用?」
 本当は店員ではなく恋人と言いたかったのだが、そう言えば照 れたソフィーが顔を真っ赤にして怒るのは目に見えていた。そんなソフィーも可愛くて、ハウルとしてはぜひ見たい光景ではあるのだけれど、そんな可愛いソフィーの顔を二匹の虫けらどもに見せてやる気にはなれなかった。それを言えば、こうして怒っているソフィーの顔も、いや、ソフィー自身もだったけれど。可愛くて愛しくて、世界以上には大事で大切な恋人を独占したいと毎日のように思っているのに、どうしてこう上手くいかないのだろう。
「ハウル!」
 急に声をかけられたソフィーは、驚いたように顔を上げた。長身なハウルと、どちらかと言えば小柄なソフィーでは、ソフィーはいつも上を向かないとハウルの顔を見ることができない。
「もう、いきなり現れないで! びっくりするじゃないの。仕事が休みの日はいっつも寝坊するんだから」
 ここが花屋だということも忘れ、いつものように小言を口にするソフィーに柔らかな微笑みを返しながら、ハウルはちらっと男達に視線を向けながら口を開いた。突如現れた派手な服装のハウルに、驚いたように目を見開いていた二人が、何か文句の言葉を口にするよりも早く。先手を打って。
「いいじゃないか、たまの休日なんだから寝坊ぐらい。いっつも王室では、国王にこき使われてるんだからさ。本当、王室付き魔法使いなんてなるもんじゃないね!」
 王室、国王―――そして、王室付き魔法使い。
 一般庶民には縁の遠い、遠すぎる言葉を耳にした瞬間、まるで指し示したかのように、男達は顔をさっと青くすると、脱兎のよ うな勢いで店から飛び出して行った。勢いが良すぎて、ぶつかった鉢植えが倒れ、ごろごろと転がって違う鉢植えにぶつかって止まったのを、ハウルは馬鹿にしたような笑みを浮かべ、ソフィー はぽかんと口を開けながら眺めていた。
―――強気に勝気なマイガール より


 ―――あぁ、まったく、まったく!
 自室のベッドにもぐりこみ、布団を頭の上まで被り、目を閉じて真っ暗な世界に逃げ込んでも、ソフィーの体中の熱はちっとも下がりそうにはありませんでした。むしろふかふかな布団の中で、蒸されていくようですらありました。
 ソフィーは今、自分が恥ずかしがっているのか驚いているのか、それとももっと別の感情で占められているのか、自分でもさっぱりわかりませんでした。ただ、本当にもうどうしようもないくら い……頭が破裂しそうだと思いました。
「……もう、ヤダっ」
 思わず呟きが、ソフィーの口を割って零れ落ちました。
 思い出したくもない、下品だとしか思えない光景が、ソフィーの脳裏にこびり付いて剥がれませんでした。あぁ、何て物を。何て物を、自分は見てしまったのでしょう! どうしてあんなものが、あの箱の中に出てくるのでしょう? 今まで何回か絵の動く箱を見たことがありましたが、一度だって、あんな物が出たことはなかったのです。どうして今日に限って、あぁ!
 頭の上まで引っ張り上げた布団を握る手に、ぎゅっと力がこもりました。あの光景を忘れることができたら、どれだけいいでしょうか。本当なら今頃は、ハウルと一緒に楽しくウェールズで過ごしているはずだったというのに。
 ―――ハウル。
 その言葉を胸中で呟いて、ソフィーはどうしてここまで自分がおかしくなっているのか、わかったような気がしました。いえ、本当は、始めからわかっていたのです。何せ、頭にすぐ浮かんだのはそれだったのですから。
「……あんなこと、できるわけないじゃない……っ」
 あの、箱の中の男女がやっていたようなことを、自分とハウルがするだなんて。ソフィーはとてもできそうにはありませんでした。考えただけで頭が爆発して、ハウルの顔だって見れないのですから。あんなことを、あんなことを! ベッドの上で、二人で裸になって抱き合って……そこまで思い出して、ソフィーの頭はばふんっと煙を上げそうになりました。
―――全身全力ラブパッション より


「あたしね、そういえば昔、好きな人がいたの」
 それは唐突な、唐突すぎるソフィーの告白だった。ハウルは目を見開いた。ベッドの上に腰掛けて、ソフィーはくすくすと笑っている。
 冗談なのだろうか。
 ハウルは一瞬それがわからなかった。喜怒哀楽の激しい彼女のことなら、例えば瞳の一瞬の揺れであっても見逃さない自信はあったのだけれど。今のそれだけは、ハウルにもわからなかった。そんな瞬間。
 そりゃあ、と、ハウルは胸中で呟いた。
 ソフィーだって十八の年頃の少女で。自分と出会ったのはつい最近で。それまでの人生の間で、好きな人の一人や二人いたって、全然不思議ではないけれど。
「それは聞き捨てのならない台詞だね」
 恋をするのは当人の自由であり、今現在ならともかく、彼女の過去にまで自分が口を挟む権利は無いということを、ハウルはよく知っている。それは当然のことだった。そうして彼女もまた、彼の過去には口を出さない。数多くの女性遍歴を知っているだろうに、ソフィーは一度もそれを口に出したことはなかった。少なくとも呪いが解けて、元の姿になり、ハウルと恋人同士になってからは。
「あら、あたしがいつだれを好きになろうが、それが過去の話である限り、あんたには関係のないことでしょう?」
―――さよなら可愛い君の夢 より
全体的にほのぼのらぶらぶ。ほのぼのらぶらぶ(二回言わなくてよろしい
あったかくてぽやーんとするような感じを目指しました。
可愛い感じに仕上がったと思います。私にしては(笑