「 眠り姫 」(ポートヘイヴンへようこそ)
コピ本/A5/?P/表紙特殊紙使用一色刷り/¥200
眠り姫という題の通り、眠るソフィーをめぐってのシリアスとギャグ話。
がらっと変わる二つの雰囲気をお楽しみ……頂ければ幸い(笑
「連れてくのか?」
「うん。ここで寝てたら風邪ひいちゃうから」
抱き上げようと、ソファーとその身体の間に両腕を差し入れながら、大丈夫かな、とマイケルは自問自答した。
成長過程にあるこの身体には、あまり力がないことを自覚していた。平均よりも身長は高いというのに、このアンバランスさは何なのだろう。
それにソフィーより身長が高いとはいっても、ハウルとの身長差に比べればそれはわずかなものだった。
あの人みたいになりたいわけではないけれど、とマイケルは心の中で呟いた。
それでも身長ぐらいは、あの人ぐらいに高くなってもらいたいものだなと。
「平気なのかよ?」
マイケルの心の中をまるで覗いたかのようなタイミングの良さで、にやにやとした笑みを浮かべながらカルシファーはそう尋ねてきた。
背中を向けた先のカルシファーの表情はマイケルにはわからなかったが、その声の色で今あの悪魔がどんな顔をしているのかは容易く想像することができた。何て小憎たらしい。
「大丈夫だよ」
決して高くはない男のプライドをもってそう答えて、マイケルはぐっと両手に力を入れると、勢い良く立ち上がろうとした。
そして実際、驚くほどの勢いで立ち上がることができ、マイケルは思わず目を丸くした。
「あ…」
ソフィーを彼女の自室のベッドまで運ぶという、当初の目的を忘れてマイケルはその場に立ち尽くした。
寝場所が、寝心地のいいソファーの上から少年の腕の中に移ったことがわかったのか、「…ん」ともらされた寝言にマイケルははっと我に返った。
「おい?」
マイケル? と名前を呼ばれて、慌てて「何でもないよ」と答えてマイケルは一歩を踏み出した。
軽い。
そのことに、今初めて知ったその事実に、心の底から驚いた。
元々彼女は太っているわけではなく、むしろ街の女性と比べてみた時には痩せている方だと思っていた。それでもこの軽さにはマイケルは驚いた。
その軽さに、どうしてだろう、こうして自分が今抱き上げていることにとんでもない罪悪感を感じてしまうのは。
マイケルにとってソフィーは、あくまでも年上の女性であり、マーサの姉であり、師匠であるハウルの恋人であった。
共に暮らし、家族のようだと思いながら、けれど自分とはどこかで一線を置いた存在だった。
それは師の恋人であるという、そこに原因があるのかもしれない。出会いはさて置き、今の状況だけを見るに、彼女はそうしたマイケルよりも上の存在であって。
けれど今。初めてと言ってもいいほど、マイケルはソフィーをただの少女として見ていた。
気持ち良さそうな寝顔に、そういえば自分はマーサの寝顔だって見たことがないということに気づいた。
恋人であるマーサの方が、ずっとマイケルに近い存在なはずだった。けれど実際はこうして、ソフィーの方が身近な場所に立っている。
いや、今は立ってではなく、こうして腕の中に。
おかしい、とマイケルは思った。どうしたのだろう。自分はどうしてしまったのだろう。
何か目の前に垂れ下がった幕が一枚、取り払われてしまったかのようだった。
これには気づいてはいけなかった。いけなかったのだ。
自分にとってソフィーはどこまでも、身近でいながら遠いところにいる、そんな存在で良かったはずなのに。
だからといって何が変わったわけでもない。変わらずマイケルが好きなのはマーサであるし、ソフィーはこれからもマイケルにとって姉のような母親のような、そうして将来の姉であり続けるのだ。
何が変わったわけでもない。
しかし確かに、マイケルの中でソフィーの在り方は変わってしまった。
変わらなければいいのに。
―――シリアスVer より
もしかしなくても、ハウルがソフィーの寝顔を目にしたのは、これが初めてのことだった。
荒地の魔女を倒してから、早いものでもう一ヶ月になる。正真正銘の恋人同士になったというのに、どうにもソフィーはそこらのことについてはいように奥手で、いまだにキスすら交わしたことのない、健全すぎる程には健全すぎるほどの付き合いをしている二人であった。
『キスぐらいしたっていいじゃないか!』
いつだったかの夜(確か荒地の魔女を倒してすぐのことだっただろうか?)、カルシファーは散歩に出かけ、マイケルは自室で課題をこなし、居間にはソフィーとハウルの二人きりだったことがあった。
翌日は仕事も休みとあって、ハウルは一人でブランデーなどを楽しんでいた。
気を良くしたハウルが、ソファーの隣に腰掛け、縫い物をしていたソフィーにキスを迫ったのは、ハウルからしれみればごく自然なことだった。
恋人同士になってから、もう数日が経つわけだし。お互いにそう子供でもないのだから、これぐらいは当たり前のことだろうと。
けれどソフィーはすぐさま目を丸くして、思い切りどんっとハウルの胸を押し返してくれた。
『いきなり何しようとしてるのよ、あんたはっ!』
まるで痴漢にあった時のような形相だった。
ただ驚いただけにしては、少々可愛げというものが足りない、足りなさ過ぎる、と思ったハウルは、ついつい上記のような台詞を言ってしまったのだ。キスぐらいいいじゃないか、と。
ハウルとしては、好き合っているんだから、ならキスぐらいしても、と、そんな意味合いを含んだ言葉だったのだけれど。
ハウルのその台詞を聞いて、ソフィーは眉を上げると大声で怒鳴った。
『キスぐらい? そうね、あんたは今までたくさんのご婦人方と、色々楽しんできたんだものね! キスぐらい、さぞかしお安いものでしょうよ!』
―――でも生憎、あたしはそうじゃないのよ!
ソフィーはそう叫ぶと、縫い掛けの布を持って、どすどすと足音もうるさく自室へとこもってしまった。
それ以来、ハウルはここぞ! という時に、(本人にしては)さりげなくキスを迫っているのだけれど、どれも同じように逃げられてしまって。
何が悪いのか、ハウルにはさっぱりわからない。
人前でしようとしているのなら、ソフィーが逃げるのもわかる。何せ彼女は人一倍には照れ屋なのだから。マイケルがいるとかカルシファーがいるとか、そんな状況であれば仕方ないとはハウルも思うが、ハウルが迫るのはいつだって二人きりの時ばかりだ。彼としては、べつに周りにいくら人がいようと関係ない、むしろ見せ付けてやろうとすら思うのだが、可愛い恋人の、キスを交し合った後の、恐らくはそれはもう可愛くて可愛くて仕方のない顔を、他の人に見せるのはどうしようもない程には嫌だった。ハウルはとんでもなく心が狭かった。独占欲が強いとも言う。
だからそれを考え、二人きりの時を見計らって(あるいは無理やり作り出して)迫っているというのに。どうしてソフィーが怒った挙句に逃げてしまうのか、いくら考えてもハウルにはその理由がわからなかった。
本気で考えすぎて、まさか嫌われているのでは、等と言う考えに行き着いたこともあった。
けれどそれも、珍しく花屋に顔を出し、適当にやってきた女性客に愛想良く対応してみれば、ソフィーは傍
から見てもわかるほど機嫌を悪くし、焼き餅を焼いているのだから、嫌われているということは無い、むしろばりばりに好かれているとハウルにはわかった。
けれどそれなら何故、好き合っているのに避けられるのか。
思い余って、仕事中などということも忘れて(いつも忘れているのだけれど)サリマンに愚痴ってみれば、「おまえが盛り過ぎてるんだろう」と書類に判を押しながらあっさり言われた。まるで発情期の動物のような言い方をされてむかっときて、ハウルも負けじと言い返した。「そういうあんたは、いつだって抑えてばっかで、影でにやけてたりするんだろう? そういう奴のこと何て言うか知ってるかい、むっつりすけ……」けれど最後まで言うことなく、飛んできた書類の一枚に頬を切った。もちろんハウルが喚き立てたのは言うまでもない。
そんな状況である自分達であるからこそ、同じベッドで朝を迎えるなんてことは、夢のまた夢であり。
一つ屋根の下で暮らしているというのに、寝顔を見たのだってこれが初めて。
大学時代の仲間に知られれば、大笑いされるかもしれない。何せあの頃の自分は(今もだけれど)、三日以上彼女がいないことなどなかったのだから。もちろん夜はそれなりに楽しむことは楽しんで。それが今ではどうだろう?
―――ギャグVer より
シリアスはとことんシリアスに、ギャグになると一気にハウルさんが盛ってます(笑
妹にはギャグバージョンが好評でした。ってそんなことどうでもいいですかそうですか。
←