その子は僕の隣に住んでいる子で、赤毛が可愛くて笑顔が可愛くて、ちょっと世話焼きで怒るとすぐに箒で殴ってきたりするんだけど、でも恥ずかしそうに笑う顔がとっても可愛くて、とにかくまあ僕にとっては理想の女の子なんだ。その上まだ女子高生と来たもんだ。
残念なんだけど今の僕らの関係は精々ご近所さん、良くてお友達なんてところなんだけど、恋人同士になるのだって時間の問題だと思ってる。問題はあの障害物なんだ。父親はもういないけど、そ09の分母親と年子の妹がうるさくて嫌になる。女の子を落とすのは得意だけど、さすがに包囲網を組まれたら僕だって手も足も出せなくなる。
まあそれはいいんだけど。
「……えーっと、ソフィー? ソフィーちゃん? あの、すごく聞きたいんだけど、あんた一体何しに来たわけ? 何しようとしてるわけ?」
「そんなの、決まってるでしょ。今日こそは覚悟決めてもらうわよ」
そんな凛々しいことを言って、ソフィーは僕の前で仁王立ちになった。今時の女子高生にしては長めのスカートだとか、そこから覗く白い足とか、色々注目したいポイントはあるんだけどそんな場合じゃない。
「いや、ちょっとあの覚悟って……それより、あんたいきなり家に入ってくるの止めてくれよ! ねぇ見てわかんない? あんたが来る今の今まで僕はぐっすり寝てたんだよ! 僕の安眠を妨害しないでくれないかなぁ!」
「もう夕方じゃない! なーにが安眠妨害よ。惰眠を貪ってないで、さっさと起きなさいよ!」
「だからまだ夕方で……大体ね、男の一人暮らしの家に女の子が入ってくるもんじゃ無いだろ?」
我ながらなんてフェミニストな台詞だろう!
なのにソフィーは、ふんっと大きく鼻息をついた。女の子がやる動作じゃないよそれ。
「男だって言うんなら、いい加減覚悟決めなさいよ!」
「いや、だからそれとこれとは別というか、何ていうかもっと繊細な問題で……って人の話聞かずに何やってるの!?」
いきなりセーラー服のリボンを外し出したソフィーに僕は慌てた。いや女の子が自分から脱ぐのってけっこう好きだけど。でもそうじゃなくて。
「ほら、早くしなさいよ」
「早くしなさいとかそんなこと言われても! っていうか、ベッド上がってくるの止めてくれよちょっと離れて本当に離れて。あんた自分が何してるかわかってるわけ!?」
「わかってるわよ、当たり前でしょ? ほら、さっさとやってちょうだい。それとも何よ、もうちょっと脱いだ方がいいの? これじゃ無理?」
このお嬢さんには羞恥心てものが無いのだろうか。
「いやいやそれ以上はいいよ見たいけどいいよ、っていうか服直して! 無理だよ無理、いつも言ってるけど本当無理だから!」
「何よ、まだ覚悟決められないわけ? あんたそれでも本当に男なの!? もう、しっかりしなさいよね!」
「生まれてから二十七年間美青年やってるけど、無理はものは無理なんだよ! 生理的にうけつけないものってあるだろ!? あんただって、テントウムシが周り飛んでても平気だけど、ゴキブリが飛んでたら嫌だろ!? それと同じなんだよわかってくれよ!」
「生理的嫌悪ってのはだれにでもあるものかもしれないけど、あんたの場合は全然違うじゃない!」
怒鳴りながらソフィーはベッドから降りてくれた。あああ良かった。白い首筋は男としては好きだけど、そこから先のことを突きつけられて無理やり想像させられるともうダメなんだ。
とかほっと息をついてたら。
ソフィーがカーテンに両手をかけた。
僕は悲鳴を上げた。
「ああああ眩しっ! 眩しいからソフィーお願いだからカーテン閉めて本当お願いだから! 夕日が目に突き刺さる痛い痛い!」
「何よ、このぐらいの夕日で。どこが眩しいのかちっともわかんないわよ。あんたちょっと大袈裟なんじゃないの?」
「そりゃあんたは人間のお嬢さんだから!」
布団をかぶりながら、僕は負けじと叫んだ。
「あのねぇ、僕はあんたとは違って吸血鬼なんだよ!」
でも怒鳴り声の大きさじゃ、僕はソフィーには完敗だった。
「吸血鬼だって言うんなら! しっかり血を吸ったらどうなのよ!? 血の飲めない吸血鬼なんて聞いたことないわよ! あんた、よくそれで今まで吸血鬼やってこれたもんよね!」
「僕だって好きで吸血鬼に生まれたわけじゃないよ!」
血を飲まずに生きていける人間に生まれたら、どれだけ良かったことだろう。
でも仕方ない、そんなことを言ったって、僕は正真正銘の吸血鬼なんだ。
やっとカーテンを閉めてくれたソフィーは、もそもそ布団から顔を出した僕を見て、あきれ返ったため息をついてくれた。