M*PARADOX
 やっぱり慎重に、二人してベッドに腰掛けた。ソファを立ち上がってからここまで、僕らは何もしゃべらなかった。何を言えばいいのかわからなかった。ソフィーも多分、同じだったんだと思う。
 手を繋いだまま、並んでベッドに腰掛ける。
 月が動く音すらも、聞こえてきそうな静寂だった。実際に僕に聞こえたのは、左胸の下でうるさく鳴っている、僕の心臓の音だけだったけど。
「……何考えてるの?」
 いつもよりもかすれてる声で、ソフィーがそう尋ねてくる。やっぱり帰るなんて言い出されなかったことにほっとしながら、僕はいつの間にか溜まっていた息を吐いた。
「あんたが、今日僕の部屋を掃除してくれて良かったなって」
「そうね。埃だらけのベッドなんてごめんだもの、あたし。上から蜘蛛が降ってくるのなんてさらにごめんよ」
「可哀想に、あの蜘蛛たちは今頃寝床を探してるんじゃないのかな。僕らみたく温かいベッドがどこかで待っててくれるのならいいけど」
 僕ら、と言った瞬間に、ソフィーが小さく肩を震わせたのがわかった。きっと、僕よりもソフィーの方がずっと緊張している。僕にとってはソフィーとの初めての時間だけど、ソフィーにとっては正真正銘、生まれてから初めて迎える時間なんだ。
 そう思うと、余計にこっちまで緊張してきた。ただでさえうるさい心臓が、輪をかけて騒がしくなってきた。
「あ、あの、ソフィー」
「……なに?」
 落ち着け、と自分に言い聞かせる。僕は大人で、経験だって十分にあって、ソフィーは女の子で、何も知らない無垢なお嬢さんで。僕が全部教えてあげなきゃいけない。ゼロから、二人で迎える最高の瞬間まで全て。
「あの……優しくするから」
 もっと気の利いた、ソフィーの緊張を解すようなことを言ってあげたいのに、口から出てきたのはそんな一言だけだった。何でこんな。他の女の子にはもっと色々な、甘ったるい台詞も平気で囁けたのに。肝心の本命の女の子の前でこれだなんて。
 でもソフィーは、僕の台詞に嬉しそうに頬を緩めた。緊張はまだ顔に現れていたけど、それ以上に安心したように微笑んでくれた。
「……えぇ」
 だから大丈夫、と言われた気がした。あんただから信頼してるのよ。そんな、声にならないソフィーの声が聞こえたような気がした。
 気がつくと、僕はソフィーの小さな唇をそっと塞いでいた。目をつぶったソフィーの、長い睫毛を見てから僕も目を閉じた。甘くて、さくらんぼみたいだ。そのまま、初めて舌でソフィーの唇をぺろっと舐めた。
「……っ!」
 ソフィーの身体が跳ねる。そんな反応が可愛くて、両手を回してぎゅっと腕の中に閉じ込めた。大丈夫だよと言うように、もう一度優しく唇を舐める。緊張したように閉ざされたままの唇を、少しこじ開けるように舌を差し込めば、ソフィーはやっと僕の意思を察してくれたのか、おずおずと口を開けてくれた。
 ―――本当に、何にも知らないんだ、このお嬢さんは。
 それは喜び以外の何物でもなかった。ゆっくりソフィーの口の中を堪能した。歯列をなぞってから、どうすればいいのかわからず戸惑っているソフィーの舌を探し当てる。絡め取れば、ソフィーは逃げはしなかった。ただ、困っているのが舌の動きだけでよくわかった。息苦しい様子も。