お隣さん、いらっしゃい☆
B5/特殊紙FC/44P/¥700
ゲストに滝神さんをお招きして、表紙&漫画2本描いて頂きました。
お隣さんワールドがそのまま漫画になっていて、めちゃくちゃ驚きました…。
私が書く以上にお隣さんでした。自分の二次話を漫画にしてもらえて、何とも嬉しい1冊でした。
滝神さん漫画






ソフィーが目を覚ました時、見たのは見知らぬ天井だった。
「ソフィー! 気がついた?」
すぐさま聞こえてきた声に、ゆっくりと頭を動かすと、すぐ側に友人のエヴァが立っていた。どうしてエヴァがこんなところに、と思った時、また違う声が聞こえた。
「あぁ、ハッターさん。目が覚めた? 気分はどう?」
ぼーっとした頭では、すぐさまその声の主がだれなのかわからなかった。数秒声のした方を眺めて、白衣をまとった優しげな笑みを浮かべたその女性が、保健室の先生だということに気づいて、ソフィーは首を傾げた。……と言っても、何故だか思う通りにならない体は、ちっとも動いてはくれなかったのだけれど。
「まったく、駄目よ、具合が悪いのに体育なんかやっちゃ。校庭でランニングしてて倒れたの、覚えてる?」
「え、あの、あたし……」
そんなことがあったのだろうか? いや、そういえば―――と、ソフィーは記憶を手繰り寄せた。今日は朝からどうしてか身体が重く、まだ七月の上旬だというのにもう夏バテかと、そう思いながら学校に来て、そうして三時間目の授業の体育だったのだ。いつもよりも辛いと思いながら、あと一週だからと自分を叱咤し―――そうして、倒れてしまったのか。
「まったくもう、あなたが無茶するのは知ってたけど、熱があるのに校庭で走るなんて、バカのすることよ!」
腰に手を当てながらエヴァは怒鳴り、ソフィーはそれに反論もできなかった。そうか、身体がだるかったのは熱があったからなのかと、今更になって気づくだなんて、本当にバカのすることだろう。そういえば、朝よりも身体のだるさはひどく、頭痛までするようだった。
無理をしたために悪化したのは明らかだった。
「センセー。バック持ってきましたー」
がらっと扉が開いて、クラスメイトの声が聞こえて来た。見ると、数人の女生徒がいた。一人がソフィーのバックと、それから制服を持っている。何で、と思った時に、保険医の先生が口を開いた。
「さっきお家の人に電話をしたから、そろそろお迎えが来るはずよ。あなた、三十九度近い熱があるんだから。家に帰ったら十分に休むことね」
「……はい」
ソフィーは小さく頷いた。すると、やって来たクラスメイトが口々に、「大丈夫?」と話しかけてくる。荷物を持ってくるだけなら一人で十分なのだから、皆心配して来てくれたのだろう。確かに、授業中にいきなり倒れたとあれば、心配せずにはいられないだろう。
皆の優しさが嬉しくて、少し微笑みながら、そういえば一体だれが迎えに来るのだろうとソフィーはそれを考えた。両親は、今日も仕事ではなかったのだろうか? まさか仕事を抜けて迎えに来るなんてことは無いだろうし―――
「すみません、妹の迎えに来ました」
その時、小さくノックをする音が聞こえ、次いでがらっと扉は開かれた。その声と、友人達の間で起こる小さな歓声の声に、ソフィーは姿を見ずともだれが来たのかを悟った。悟って、身体のだるさも忘れて、がばっと上半身を起こした。
案の定、にこやかな笑みで入ってきたのは、白いTシャツによれよれのジーパン姿という、ラフな格好をしたハウルだった。服装こそだらしないが、けれどその容姿が友人達にどんな印象を与えたのかは、鈍いソフィーでもすぐにわかる。予想もしなかった美青年の登場に、一気に友人達は色めき立った。ソフィーは頭をかきむしりたくなった。
「ちょっと、だれがあんたの妹よ!」
「似たようなものだろ?」
ハウルは飄々としていたが、保険医の先生は困惑したような笑顔を浮かべて首を傾げていた。
「えぇっと……電話では、ハッターさんのお兄さんが来るってことでは?」
「実を言うと本当の兄じゃないんですけど、でも家族同然の付き合いをしていて、昔からソフィーのことを本当の妹以上に可愛がってるんですよ」
まったく悪びれた様子もなく、ハウルはそう言ってにこりと微笑んだ。嘘つき、とソフィーは胸中で呟きもらした。一体どこの兄が、日々妹の胸を揉んだり破廉恥な下着をプレゼントしたりするというのだろう? 厚かましいにも程があるというものだ。
「家の合鍵も持ってますし、心配ならソフィーの両親の仕事場に電話をかけて確認してもらってもいいですから」
「ハッターさん、それは本当なの?」
ここで違うと言ってやれればさぞかし気持ちは良かっただろうが、それが事実である以上、そうもいかなかった。ソフィーは不承不承「そうです」と頷いた。とたんに保険医の先生は安心したように笑顔を浮かべた。
「あぁそう、それなら良かったわ。じゃあハッターさん、お迎えも来たことだし、家に帰ったら安静にね」
「……はい」
ハウルが来たことによって、不思議なほどソフィーのテンションは落ちていた。よく考えれば、両親が来れるはずはないし、そうなったらハウルが来るのは当然、むしろありがたいことだというのに―――それを喜べないのは、ここに数人の女生徒がいるからなのかもしれない。風邪が治って学校に復帰したら、絶対うるさく色々なことを聞かれるに違いないのだから。何せハウルは顔だけはいいのだ。
「じゃあソフィー、これ持って」
と、渡されたのは、ソフィーの鞄と制服だった。確かにこれはソフィーの荷物だが、仮にも病人なんだから持ってくれてもいいのにと思った瞬間、ハウルの腕が伸ばされ、気づくとひょいっと抱き上げられていた。俗に言う、お姫さま抱っこの形で。
「な、は、ハウルっ!」
「熱が高いんだから大人しくしてなさいって」
なぜかハウルは上機嫌だったが、ソフィーはとても笑ってなんかいられなかった。だってこんな人前で、友達のいる前で、こんな風に抱き上げられるだなんて!
「離して! 離してよっ! 一人で歩けるったら!」
「熱があるのに体育の授業を受けたりする 考えなしの意見なんて聞かないよ。じゃあ、ちゃんと連れて帰って休ませますんで」
ソフィーの言葉なんてさらりと無視して、ハウルはにこやかに微笑むと保健室から出て行った。校門前に止められた車に乗り込むまで、ソフィーはずっと「降ろしてー!」と叫び、その声を聞いていたエヴァ達は、そろって顔を見合わせたのだった。