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 お久しぶりです、大佐。お元気ですか?
 まぁ大佐のことだから風邪なんて引いたりはしてないと思うんですけど(大佐の体内に入ったら、病原菌もすぐに死んじゃいそー。なんて嘘ですよ、嘘♪)、それでももういい年なんだから気をつけて下さいね。私まだ、仲間のお葬式には出たくありませんから! それよりもぱーっと派手な結婚式なんか挙げて、たっぷり美味しいご馳走でも食べさせて下さいね。
 冗談はさておき、でも本当、大佐いつになったら結婚するんですか? 見た目は若いですけど、それこそ本当にいい年なんですから、結婚する気があるのなら早くした方がいいですよ。あ、それか老い先短い老人になってから、アニスちゃんをお嫁さんにしてくれてもいいですけどねー。老後の面倒ぐらいなら見てあげてもいいですよ。あ、でもその頃にはとっくのとうに私は結婚しちゃってるかもですね。何たってほら、アニスちゃんモテモテだから♪
 先日の手紙で、大佐はーー―あ、そういえば、もうだいぶ前に中将になったんですよね。何か呼びなれなくてすみません。で、中将は、何か変わったことはないかって尋ねてくれたんですけど、そうですね、特に変わったことはないですね。仕事が忙しいのは相変わらずだし……でも多分、中将の方がずっと忙しいんでしょうね。私は何だかんだ言って、けっこう遊んだりもしてますもん。あ、この前はティアが遊びに来てくれて、一緒に買い物に行ったりしたんですよ。大佐こそ、何か変わったことはないんですか?
 仕事はまぁ相変わらずで、面倒と言えば面倒なんですけど、今はちょっと仕事以外のことの方が面倒だなって思えたりします。お金持ちっていいなぁって思ったりもしましたけど、お金持ちの中にはけっこうなバカもいるんだなって思ったりとか……あ、大佐のことじゃないですよ。お金持ちがみーんな大佐みたく切れ者だったらいいいんですけどね。でも、それもある意味怖いかなぁ。
 あ、何か愚痴になっちゃってごめんなさい。別に何かに困ってるってわけじゃないんですけど。周りがバカばっかりだと嫌になっちゃいますね、本当。
 じゃあ、そろそろ会議が始まるので、この辺りで終わりにしておきますね。アニスちゃんは出生街道まっしぐらですから、これでも色々忙しいんですよね。たまにはそんなアニスちゃんを労わって、何か金目の物を同封してくれても構いませんよー♪


追伸:近々所用でそっちに行くかもしれないんで、もし行けたら高級レストランでディナーでも奢ってくださいね♪



 一度目を通した手紙を封筒に戻すと、ジェイドは無意識に右手で目頭を押さえていた。どうしてか頭痛がするような気がする。いや、もちろんそんなことは気のせいだとはわかっている。わかっているがしかし、今のこの手紙は少なからぬ打撃をジェイドに与えていた。
「……まったく、どうしたんでしょうね」
 封筒に戻した手紙を持ち上げて、意味もなく裏表をひっくり返したりしてみたが、見た目はいつも通りのアニスの手紙だった。けれどその中身は、どうにもジェイドに少なからぬ不快感を味あわせるものだった。
 あの旅が終わってから、もう五年ほどの時間が流れただろうか。けれどお互いの親交が途絶えたわけではなく、こうして手紙のやり取りなどは続いている。アニスともそうで、こうして思い出したように手紙は来る。けれど今日の手紙はいつもにもまして変だった。
「最近は年相応に、少しは落ち着いてきたと思ったんですが……今日の浮かれた文面は何なんでしょうね。よほど嬉しいことでもあったのか、それとも―――」
 状況を見極めるにはいかんせん判断材料が少なすぎた。何せ手がかりはこの手紙一つなのだ。けれど妙に嫌な予感がする。軍人として磨かれたためか、それともこれは生まれつきなのか、ジェイドはこのような自分の勘を大体において信用していた。それで命を救われたことも何度かある。
 もう一度ジェイドは手紙を取り出すと、ゆっくりとその文面を追っていった。浮かれているように見える文面は、ジェイドにはどうしても空元気のように見えて仕方ないのだ。その証拠に最後の辺りに書いてある文章―――もう長い間アニスとは手紙のやり取りをしているが、彼女が愚痴めいたことを書いて寄越したのはこれが初めてだった。だからこんなにも気になって仕方がないのかもしれない。
「アニスもたいがい、不器用ですからね」
 本人に聞かれれば憤慨されるようなことを呟きながら、ジェイドは小さく笑った。最後にきちんと顔を合わせたのは、もう一年ほど前のことになるのだろうか。会おうと思えば顔を合わせる機会などはいくらでも作れるというのに、気づいたらこれだけの時間が経ってしまっていた。
 一年ほど前に会った時、アニスは女性とは言えないまでも、子供子供した姿からはもう抜け出してしまっていた。けれどふと思い出そうとした時に脳裏に浮かび上がるのは、旅をしていた時のツインテールの子供の姿だった。その時のアニスと過ごした時間が一番長かったからなのだろう。だからそれ以来会う度に、ジェイドは少なからず驚きを味わっていた。もちろんそれはジェイドだけではなく、他の仲間も一様にして目を丸くしていたが。
今もアニスは、変わらず神託の盾に所属している。周りはアニスよりも年長者ばかりだろうに、彼らを頼ることは おろか、恐らくは愚痴すら上手く吐けないであろうアニスの姿が容易に想像できてしまい、ジェイドは小さなため息をついた。昔から人を気にかけるのは苦手だった。だというのに、こんなにもまざまざと姿が浮かんでしまうとは。共に旅をした時間は、いささか長すぎたかもしれない。
「私相手に愚痴を吐いたって、仕方ないと思うんですけどねぇ」
 それでもきっと彼女は、面と向かってジェイドに愚痴を吐くことはないだろう。姿の見ることのない手紙だからこそ、少しばかりペンが滑ったのだ。そう考えながら、未だに不快感は胸の奥底に渦巻いていた。いや、これは苛立ちでも言うべきなのか―――苛立ち。一体何に対しての?
「バカバカしい」