ブラッディ・マリーはいかが?


...7話
「……ねぇ、どうしたのよ。この怪我」
「うん?」
スタンドの近くに置きっぱなしだった携帯に手を伸ばそうとした僕を押しとどめて彼女は言う。
「あなたね、終わった後にすぐさま携帯に手伸ばすって、それ最悪よ。もてないわよそんな男」
「でも不思議とモテてるんだよね。だからあんたも今ここにいるんじゃないの?」
軽く笑って言いながらも、僕は腕を引っ込める。そう言われてまでメールのチェックをしたいわけじゃなかったし、女性の機嫌は取れる内にとっておいた方がいいこともわかってる。
髪を撫でて、額にキスを一つ。それだけ。たったそれだけなんだ。何て簡単なんだろうね本当。
世の中の女性をこうもロマンチストにつくったのは、男への救済策なんじゃないかなって気がしてくる。でないと、とてもじゃないけど扱えないから。
「嫌な男ね」
「そんな男が好みなんだろう?」
「だれがそんなこと言ったのかしら」
「顔に書いてあるよ」
笑いながらキスをする。ついばむように。でもさっきまでくすぶってた熱が、たった一回のキスで瞬く間に盛り上がって、いつの間にか濃厚なそれになっていた。
美人とベッドの上で、熱い時間を過ごすのは嫌いじゃない。むしろ好きなんだと思う。男ならだれだって。
でもそれは、後腐れのいい相手に限る。下手に束縛してきたり、一回寝たからといってすぐに女房面する女なんて糞食らえだ。昔はそんな奴が山ほどいた。うんざりするような時間だった。どうしたら女性っていうのは、ああも厚かましくなれるんだろう。たった一晩で男を拘束できるなんて、本当に思っているとしたら大したもんだ。
「……本当、嫌な男だわ」
わざとらしいほどに顔を歪めて、鼻に噛み付かれた。僕は笑ってシーツを引っ張り上げる。見えるとこに痕を残すのは勘弁してほしい。何たって職場は学校なんだから。
「ねぇ、この怪我、本当どうしたのよ?」
ふざけた顔を一瞬にして脱ぎ去って、彼女はそう尋ねてくる。
怪我? そんなものした覚えはないんだけど。彼女の視線を追って首筋を押さえた僕は、しばらくした「あぁ」と呟いた。
首筋―――どうやら、生気が一番宿るらしい場所。昼間は服で隠れるからと、油断してたけど。全部脱ぎ去った今となっては、当然だけど一目瞭然なんだ。
「実はさ、吸血鬼に噛まれちゃって」
一番効果的な嘘は真実をしゃべることだって、教えてくれたのはだれだっただろう。
「またそんなこと言って。本気で心配してるのよ、私は」
「本当だよ。僕の勤めてる高校に吸血鬼がいてね」
「はいはい」
また今度ね、とでも言わんばかりの声音で彼女は笑う。仕方ない人ね、とでも言うかのように。
仕方ないのはどっちなんだろう。僕は本当のことをしゃべってる。一方的に嘘だと決め付けてるのはそっちの方なのに。
騙して、騙されて。そんなもんなんだろうな、男女の関係なんて。
それを虚しいと思うことすらいつしかしなくなった。若かったんだろうな。恋愛なんてものに一喜一憂していた。今から思うと何てくだらなかったんだろう。
「ねぇ、好きな人いるの?」
そんなことを、本気で問いかけたことも昔にはあったんだ。もう忘れてしまったけど。
「君らしくない質問だね」
「あら、たまにはいいじゃない」
拗ねたような顔をしてみせる。そんな手には乗らないさと微笑んで、僕はもう一度携帯に手を伸ばした。
メールは無かった。だけど、着信が一つ。
今日―――あぁ、もう昨日になるのか―――登録したばかりの番号。
ソフィー。
どうしてだろう。登録してある女の子の名前なんていくらでもあるのに、こうまで気持ちがざわめくのはソフィーぐらいだ。あぁもちろん、恋なんておめでたいものの所為じゃない。僕にとってソフィーという名前は、確かにある意味特別になった。だってそうだろう? 初めて血を吸われた相手なんだ。そしてこれからも、願うことなら唯一の相手。
「ちょっとごめん」
「どちらのお相手かしら」
意味ありげに彼女は微笑む。だけど面白がっているような顔。お互いに下手な嫉妬なんかはしない関係。なんて理想的な。
携帯を耳に押し当てて、呼び出し音を聞く。五回、六回。どうせ明日また顔を合わせることになるんだ。別にいいじゃないか。そんな風に思い始めた頃。
『……先生?』
電話越しに聞く声は、今日の昼間、屋上で聞いていた声とは少し違って聞こえる。
電話で先生だなんて。そんな風に呼びかけられたのは初めてで、何だか少しくすぐったい。それにどうして、そんな不安そうな声を出すんだ、ソフィーは。
「うん、僕だけど。どうしたの? 何か用事あって電話してきたんだろう?」
何かあった時のために、と言って、携帯番号を交換した。
実際、何か起こるのかなんてわからなかったけど。でもほら、ソフィーが倒れた時なんかに。あぁでも、倒れたら電話はできないわけだけど……でも何かあったらと、お互いの番号を交換したのは今日の昼間。昼休み。
それからまた十時間ほどしか経っていないのに、もう信じられないほど長い時間が経ったような気がするのはどうしてだろう。
思い返せば返すほど、昼間のあの時間が、夢か僕の妄想だったような気がしてならない。妄想ならもっと楽しいものを見てもいいはずなんだけど。
不思議なことは山ほどあった。聞きたいことも山ほど。オーガスタスはどうして、吸血鬼の持つ毒について、僕に何も説明してくれなかったんだ? あんなハイになるだなんて思いもしなかった。それに、今触ってもはっきりわかる。ぽっかりと開いた穴―――なのにソフィーに噛まれた後、驚くほど早く血は止まった。それこそ一瞬で。僕の服が血で汚れるようなこともなかった。これだって一体どうなってるんだ?
『あの、先生……』
「うん、なに?」
あぁ、聞きたいことは山ほどあるのに。
なのに、不安そうなソフィーの声を聞いたら、矢継ぎ早に質問するのがとてつもなく大人気ないことに思えて、疑問は全部喉の奥に飲み込むしかなくなってしまうだなんて。
やっぱり僕も、腐っても教師なのかもしれない。だって相手は勤め先の生徒なんだ。吸血鬼なんてことより何よりも、まだ子供の、高校生なんだ。
「どうしたの? 何かあったの?」
とんでもなく優しい声を出しちゃってるじゃないか。こんな声が出せたんだと自分でもびっくりするぐらいに。
『ううん、あたしは何もなくて……そうじゃなくて、先生が。あの……具合悪くなったりしてないかなって……心配になって、その』
「―――」
思わず絶句した。
だって。具合が悪くて、しょっちゅう倒れてたのはそっちの方だってのに。
僕なんてこれでもかってぐらいぴんぴんしてるんだ。それこそ夜に一運動できたぐらい。もちろんそんなこと口にはしないけど。
「大丈夫だよ、僕は。何ともないから安心していいよ」
『……本当に?』
その声が泣きそうに聞こえたのは僕の気のせいなんだろうか。
僕はけっこう安易な気持ちで引き受けてしまったけど、もしかしたらソフィーはあれからも、うんと悩んだりしてたんじゃないのだろうか。
何となく、そんなことが気になった。真面目な子だっていうのは最初からわかってたんだ。僕みたく適当に生きてきたわけじゃないってことが見てればわかる。往生際が悪いと思ったけど、それは最後の最後まで悩んでたからじゃないのかななんて。
全部、僕の思い過ごしだったら笑えるけど。
「本当だよ。何なら写メでも送ってあげようか? 大丈夫だってば。明日だっていつも通り学校に行くよ。あんた心配しすぎなんだよ」
『でも……だって、先生は普通の人間だから。ジャン・バティとは違うし……あたし、初めてだったから。大丈夫かなって、ずっと心配で……』
「家に帰ってから今まで、ずっと心配してたの? バカだなぁ」
僕は思わず笑った。ソフィーがむくれたように息を飲んだのが分かった。
本当にバカなお嬢さんだ。今時珍しいぐらい真面目で―――とんでもない女の子だ。色んな意味で。
こんなに真剣に女の子に心配されたことは今まで無かったんじゃないのかな。何だかけっこういい気持ちだった。バカだなぁなんて言いながらも、ついつい笑みがこぼれてしまうぐらいには。ソフィーはバカだ。とびきりに。でもそこが可愛い。
「大丈夫だから。明日も昼休みに待ってるよ」
自然とそんな言葉が口から出ていた。ちょっとしたボランティアのつもりだったけど、何だかけっこういい感じじゃないか。
『毎日じゃなくてもいいのよ。あんまり飲んだら、本当に先生が倒れちゃうもの』
「あれぐらいなら平気だよ。でもそうだな……あんたがそんなに心配なのなら、僕の様子をあんたの目で確かめてさ、それから決めるっていうのはどうかな」
一体僕は何をしてるんだろう。
ホテルで、今まで仲良くしてた女性が隣にいるのに、明日の血液提供の話だなんて。
おかしすぎて笑えてくる。こんなことをしてるのは、世界広しといえども僕ぐらいのものだ。
『先生はいいの、それで?』
「いいから言ってるんじゃないか。あのね、あんた心配しすぎだよ。僕が今日ちょっとでもふらついたりした? 貧血になりそうな素振りでも見せた?」
『……そんなことはなかったけど』
「だから大丈夫なんだよ。大の大人の男の体力を甘く見ないでほしいな。これでも大学時代にはラグビー部だったんだから』
『それと何の関係があるの?』
まぁ言われてみればそうなんだけど。
ソフィーは少し笑っていて、それに僕はものすごく安心していた。
だってほら、せっかく血液を提供したのに、肝心のソフィーが満足してないんじゃせっかくの僕の血が無駄になるところだし。
「僕は大丈夫だからさ。ね、また明日の昼休みに会おうよ」
『……えぇ、わかったわ』
電話越しにソフィーは笑う。心地良い声だなと思う。いつも僕の周りにいる子達のような、甲高い声じゃなくて。高いソプラノだけど、でも落ち着いてる。耳に心地良い声なんだ。だからなんだって話だけど。
『ありがとう、先生』
そう言ってソフィーは電話を切った。
ありがとう、先生、だなんて。
そう言った時のソフィーの微笑んでる顔まで浮かびそうでちょっと焦った。やっぱり生徒に携帯番号を教えたのはまずかったんじゃないだろうか。どうしてなんて聞かれたら困るけど、でも何となく。これってばれたら校長からうるさく聞かれたりするのかな。そんな時はオーガスタスが何とかしてくれたりするんだろうか。何にもわからない。
「今の、だれとの電話だったわけ?」
隣にいる彼女は現実。
でも今の僕にはひどく非現実的に見える。
「うん? 可愛い吸血鬼だよ」
彼女はため息をつく。
ほら、僕の言ったことなんて信じない。
「学校の保険医って、これがけっこう大変な仕事なんだよね」
でも楽しくなってきたのも本当。僕は笑って枕に顔を埋めた。





それから、あっという間に一週間か二週間が過ぎて。
何て言うか、日常ってこんなものだっけって思ってしまうぐらいには、すっかり当たり前になってしまった。この昼休みが。
「ねぇ先生。貧血になったりしてない? 大丈夫?」
「あのねぇ、だから何回も言うけどあんたは心配しすぎなの」
変わらないのはソフィーが心配性なことぐらい。いい加減一々返事をするのも面倒になってくるぐらい。どうしてそこまで心配するんだか。
「僕があんたの目の前で一度だって倒れたことがあるかい? 無いだろ? 大体あんた心配するほど飲まないじゃないか。僕の方が心配になるよ。遠慮しないで飲みたいだけ……とは言えないけどね。限りある物だから。でももうちょっと飲んでくれても平気なのに」
「……別に、血でお腹いっぱいにしてるわけじゃないもの」
と言ってソフィーは膝の上に乗せたお弁当箱に視線を落とす。僕から見れば少ないと思える、でもまぁ女の子からすれば平均的なお弁当だ。その中身がものすごく美味しそうなことを除けば。だって冷凍食品なんか一個も使われてないんじゃないのかこれ。
「じゃあ何かな、そのお弁当が主食で僕はさしずめデザート代わりってとこかな」
「デザートなら桃の缶詰が食べたいわ」
「うわ僕って缶詰以下?」
でも大好物って言われても嬉しがっていいのかわからないけど。
僕は買ってきたサンドイッチの最後の一口を口に放り込む。ぼんやりとソフィーを眺めて、女の子って食べるのが遅いなぁなんてことを思う。その卵焼きなんて一口で食べられちゃいそうなもんなのに。どうしてそんなゆっくりゆっくり食べるんだろう。
「先生? お腹すいてるんですか?」
「え、何で」
「卵焼き見てるから」
いりますか、とソフィーが真面目な顔でそう尋ねてくる。保健室の常連の女の子達みたく、うるさく騒いだりもしないでただ普通に。きっと、僕以外にもこうやって尋ねるんだろうなって思えるような感じで。
「え、いや、別にいいよ。さっき卵サンド食べてたし」
物干しそうな目で見てたつもりはないんだけど。ソフィーは「そうですか」と頷いて再びゆっくりと食べ始める。僕が見てたのは卵焼きじゃなくて、それを食べてるあんただよなんて言ったら、このお嬢さんはどんな顔をしたんだろう。
女の子らしい色鮮やかなお弁当。お母さんが作ってくれてるのかな。偏見かもしれないけど、美味しそうなお弁当を食べてる子は、いい家庭で育ってるんだなぁなんて気がする。何となく、この小さい箱に愛情が詰まってるような気がするじゃないか。
「例えばさぁ、その弁当の量を減らしたら、その分僕の血を飲んだりするの?」
ソフィーは何を考えてるんだかよくわからない顔で僕を見上げた。
「そんなことにはならないわ。それとこれとは関係ないもの」
「え、だってさ、その分お腹が減るわけだろう? そしたら……」
「あたしはお腹が減ったらパンやご飯を食べるけど、お腹がすいたからって先生に噛み付くわけじゃないのよ」
一言一言かみ締めるようにソフィーは言った。言い聞かせるような声音。その言葉の意味を飲み込もうと、僕はゆっくり瞬きをして考える。
「えーっと、じゃ、例えばお腹いっぱい血を飲んだりとかってないわけ? それで満腹になったりとか」
「先生は、お腹がすいた時にお茶とかお水だけを飲んで過ごせるの?」
「つまりあんたにとっての血は、人間にとっての水みたいなもん、てこと?」
「……そういうことになるかしら」
目を伏せてソフィーは言う。
薄々気づいてたけど、どうやらソフィーは僕とこういう話をするのが嫌らしい。だから自分からは何も言わないし、聞かれたことにしか答えない。
そんなソフィーに話をさせるのは可哀想な気もしたけど、でも最低限僕には知る権利があると思うし……まぁ正直に言って、気になるんだから仕方ない。
「じゃあ、あれかな。あんたが血を飲まないと貧血になるのは、人間が水を飲まなくて脱水症状になるみたいな感じなのかな」
独り言みたく僕は呟く。でも多分ソフィーは、水を飲まなきゃ飲まないで、きっとそれこそ本当に脱水症状を起こすんだろうな。
「何か思ってたのとけっこう違うよね。まぁ僕の吸血鬼に対するイメージってのは、映画とか小説のまんまだからさ。現実とはそれこそ違うんだろうけど」
「お弁当を食べる吸血鬼なんていないと思ってた?」
ソフィーは小さく笑う。自分自身、信じられないとでも言うかのような口調だった。
「まぁでも、そっちの方が僕にとっちゃありがたいけどね。おかげであんたはヤクルト一本分ぐらいも僕から飲まないわけだし」
「普通の食事だけじゃ、あたし達が生活していくのに必要な栄養素は全部揃わないんだって、オーガスタスは言ってたわ。それを摂取するだけで、満腹にする必要は無いのよ」
「じゃあさしずめ僕は、あんた専用のサプリメントってところか」
何か、そう考えると一気に物事は単純なように思えてくる。
でも、僕みたくそんな風に考えられる人間は、きっとごくわずかなんだろうなぁということもわかっている。
色々と難しいのかな、現代の吸血鬼っていうのも。万が一世間にばれたりしたらどうするんだろう。気になったけど、でもそんなことを聞くほどデリカシーがない男にはなりたくない。
でも十分ここまでの会話でも、ソフィーからすればデリカシーが無いと思われたのかもしれない。いつもは完食するお弁当なのに、半分近くを残したままソフィーはふたを閉じようとしたから。
「ちょっとちょっと。そんなに残しちゃうの? もったいないよ」
「だって、もうお腹いっぱいなんだもの」
「そんな。卵焼きとかウィンナーとかミートボールとかいっぱい残ってたよ!」
「……食べますか先生」
同じことをさっきも聞かれたような。でも今度は呆れたような声だった。
答える前にソフィーは弁当箱をよこしてきた。何か食い意地張ってるように思われたような気もするんだけど、残すぐらいならここで僕の胃袋に納まった方が、きっとこのタコさんウィンナーだって喜ぶはず。
「うんもらう」
「あ、でもお箸が……」
「いいよ手で食べるから」
そう言って卵焼きを口に放り投げる。何だこの美味さ。
「いいなぁ。あんた毎日こんなの食べてるんだ」
思わず羨ましくてそんなことを言ったら、ソフィーは少し驚いたような顔で言った。
「明日、先生の分も作ってきましょうか」
「え、いいよそんな。お母さん大変だろ早起きして作るの」
「大丈夫です。作ってるの母さんじゃなくてあたしだから」
「うそ、ソフィーが作ってるの? え、ホントに?」
「……そんなに意外ですか」
そういうつもりじゃなかったんだけど、僕があんまり驚くから、ソフィーは少し不満そうな顔になった。
今の女子高生が料理なんてするっていうのが意外で、でも言われてみればソフィーが料理するっていうのはすごくイメージに合う気はする。何たって生徒手帳の見本のような格好をしてるし。今時なんて言葉が当てはまらないような子なんだから。
「や、言われればすごいしっくりくるんだけどね……あんたって料理上手なんだ」
しみじみ呟くと、ソフィーは照れたように俯いた。素朴というか何というか。可愛いんだよなぁ、一々反応が。
「でもさ、二人分作るのって大変だろ?」
「慣れてるから大丈夫です。妹達のお弁当も作ってるし」
まるでお母さんみたいじゃないか。
「それに先生、見てたらいつもコンビニで買ってきたのばっかだし……そんなんじゃ身体に悪いわ」
「一人暮らしの男の食生活なんてこんなもんだよ。あ、それとも、栄養が偏るとあれかな、血も不味くなるとか?」
「先生!」
僕の冗談にソフィーは本気の顔をしてそう怒鳴るから、参った参ったと両手を上げた。
「わかったよ、じゃあ作ってもらおうかな。でも本当、大変だったらいいからね。それであんたにまた倒れられたら困るし」
「このぐらいのお弁当、朝のニュース見ながらだって作れるのよ」
少し拗ねたようにソフィーは言う。どうやらその声音からして、それは本当らしかった。
女子高生手作りのお弁当を昼休みに囲むだなんて、それって何て素敵な日常だろう。
本当は一生徒とあんまり親しくなるのはあれなんだけど、でもそれぐらいでソフィーの罪悪感が少しでも減るのなら、そのぐらいのことには片目を瞑ることにしておこう。
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